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「一度、おまえの顔が見たいものだ。しなやかな指に澄んだ声、きっと美女だろう」
指先以外をほとんど隠す手甲の下、〈5〉の手がびくりと震えた。
毒師は独特の装束に身を包み、顔をはじめ肌をさらさず、体の線も見せない。
個人を捨てただ王に尽くすのみという意思表示だが、と同時に研究過程で外見を損なう者も少なくないことからの習慣かもしれない。
それでも性別まではさすがに隠せず――そして心情を捨てることもまた難しい。
動揺を抑えつけて〈5〉はふりかえり、顔の布を少しだけあげて、調合した解毒剤を王の前で口にした。
「――夢は、夢のままのほうが美しゅうございます」
実際、華やかな美女にはほど遠い。
それどころか貴族の生まれでもなく、毒師にならなければ、こうして王のそば近く仕えることなど決してできなかった身だ。
沈黙を埋めるように、砂時計の砂がさらさらと落ちていく。
いま飲んだ解毒剤に悪い効果があれば症状が出てくるはずの時間がすぎた。
〈5〉は王に残りの解毒剤を差し出した。
「わかったようなことを言う」
王は受け取らず、〈5〉を見ながら言った。
その言葉の意味をはかりそこねて、〈5〉はとまどった。
王は続けて言った。
「おまえにも夢があるのか?」
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