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毎夜このときだけ、王の快活さは姿を消す。
不快感どころか憎悪すら感じる表情で解毒剤を飲み干す王を、〈5〉は布の下から見つめていた。
泣きそうな顔を彼にさらさずにすむ布がありがたかった。
§ § §
むかし〈5〉がまだありふれた名前で呼ばれる少女だったころ、近くの森を王が訪れた。
当時はまだ王子で、やはり少年だった。
狩猟途中で喉が渇いたと少女の家に立ち寄り、少女が差し出した井戸水を笑顔で飲んで礼を言って去っていった。
その日から、少女は夢を見た。
――あの方のおそばにいられたら。
庶民の身分でもその夢が叶う毒師という役目を知り、願ったとき、両親は反対して怒り、泣いた。
家族の縁は切らねばならず、人からは恐れられ、疎まれる。
そんな道に娘を送り出せる親がいるものかと、両親は嘆いた。
それでも少女の夢は消えなかった。
季節がめぐり、あの日も咲いていた鈴なりのまだらの花を見るたびに、むしろ想いは強くなった。
そして少女は、家出同然に飛び出して毒師〈5〉となった。
§ § §
今夜も〈5〉は王のために調合する。
「〈5〉、今夜の毒はなんだ?」
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