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「えっと、田中はカラー診断、【群青】だったよな?」
進路指導室の狭いブースの中。
机を挟んで向かいに座る久保田先生は、私の提出した進路希望届けをぺらっとめくった。
そこに書いてあるのになあって思いながら、「はい」と私は頷く。
「【群青】ならまあ、経理とか会計士とかがいいから商学部かな。直近のカラー診断での推奨職業はなんだった?」
「えっと、経理でした。一応適正AAAです」
生まれてからこの方、ずっと事務職は全てAAAだ。
「うんうん。やっぱりな。美術部でも田中は絵にも【群青】らしい丁寧さがでてるよ。じゃあ商学部入って簿記取るのがいいかもね。W大なら田中は成績もいいし、カラー診断受験で受かると思うよ」
丁寧さが出ている。
美術部の顧問でもある久保田先生は、私の絵をよくそう言うけど、それって褒めてくれているのか不安になる。
ちなみに、創作系の職種に関してのカラー診断はいつもC。最低評価だ。
「すぐ決まりそうでよかったな」
部屋を出るとき、先生は嬉しそうにしてたけど、経理をするのかーって想像しようとしてみてもあんまりイメージはわかなかった。
でも、カラー診断で出た結果なんだから多分きっとそうなんだろう。間違いないはずだ。
「蒼ーーーどうだった?進路相談」
教室に戻ると薫が私の肩に手を置いた。
「まあカラー診断受験で、W大の商学部なら受かるだろうって。簿記でもとるのがいいってさ」
「蒼、【群青】だもんねー。てかさあ昔の名残だか知らないけどもはや進路相談なんていらないよね。カラー診断通りにやるだけだし、話すだけ時間の無駄というか」
私が、「だね」と言ったところで教室後方のドアがガラッと音を立てて開く。
ドアの向こう側にはクラスメイトの大場凪がいた。
縦に長い体に、ほとんど目が隠れるくらいの前髪。
その隙間から見える目は鋭くて怖い。
同じクラスの、同じ美術部の、問題児だ。
「凪おっそー!」
クラスの男子が囃し立てるように近寄ると、「寝てたわー」と凪はへらりと笑った。いつものように自然と人が集まっていく。
「まじで自由な人だよねー。部活でもあんな感じなの?」
遠巻きに眺めながら、薫が言う。
「まあ。うん。私もあんまわかんないけどあんな感じ」
「絶対カラー診断黄色系じゃんね。変わってるわー」
自由気ままでマイペース。
まさに黄色系という感じの性格だ。
黄色系の推奨職業はクリエイティブな職種が中心で、美大に行くのはきっとああいう人だ。
明らかに【群青】の私とは違う。
【群青】の私は欠片も向いていない。
カラー診断が言うんだから間違いない。
学校も、就職も、結婚相手も。
人生はカラー診断に従って生きるのが一番効率的で安定する。それが普通なのだ。
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