ザ・ラストラン

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 私が走行を開始したのは1977年。主に、京都本線の特急として走行してきた。阪急電鉄が誇るマルーンと呼ばれる栗色の車体に、シルバーの帯を施された先頭車。伝統を引き継ぎつつもこのユニークな車体は、鉄道友の会ブルーリボン賞をも受賞した。自分で言うのもおかしいが、名車なのだ。  そんな私が「京とれいん」としての第二の人生を歩み始めたのが11年前。  私は大幅な改造を受けた。車体には扇子といった京都を思わせるモチーフが描かれ、車内の座席も一部畳を使用したりして、とても雰囲気のあるものとなった。間違いなく、京都観光を盛り上げる役割を果たしたと自負している。  特急時代から含めると50年近く京都本線を走行してきたとはいえ、まだまだ現役だと思っていたのに。だが乗客の安全性を考えると致し方ないのかもしれない。私が今回運用を外れるのは、主要駅から順に設置されるホームドアの位置と私のドアの位置が合わないためだからだ。  私は名車の誇りをもって、自らの境遇を受け入れた。
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