ザ・ラストラン

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 京都河原町駅はにぎわっていた。停車してからも次々と私に向けられて切られるシャッター。車体だけでなく方向幕や車内装飾、はたまたホームの床面に貼られたドア位置を示す表示まで。みな、私の隅々までをカメラにおさめていた。私はむずがゆく感じながらも誇らしかった。  おや?と私は不思議に思う。もちろん大人の撮り鉄が大半を占めているが、小学生くらいの子どもも交じっている。  この子たちはもちろん、私が半世紀も京都本線を走行してきたのを知る由もない。だからきっと「京とれいん」としての私を愛してくれているのだ。そう思うと、愛おしくてならない。  さて、車内整備のためにいったん閉ざされたドアが開くとともに座席が埋まる。私はずっしりとした重みを受け止める。  そう、私が背負っているのは乗客ひとりひとりの命。私はこの人たちを安全に大阪梅田駅まで輸送する義務がある。そして、これまで私に乗ってくれた中で一番の思い出を残せることができればと願う。  人知れず、私は気を引き締めた。
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