ザ・ラストラン

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 このまま時が止まればいいのにな、と思ってしまった。そうすれば私は永遠にこのホームにいることができる──。  だが、閉まるドア、駅のアナウンス、発車の合図。運転士が鳴らした短い警笛とともに、私は静かに走り出す。  地下区間にもかかわらず窓を開けている乗客がいた。彼は「地下の匂いが好き」と笑っていた。京都河原町駅での停車中、座席で寝入ってしまった乗客は、発車とともに目を開いた。彼女は無言で膝に置いたかばんをぎゅっとつかんだ。  そんなひとりひとりの思いを乗せてのラストラン。人々の思いの重さを受け止め、私は安全走行を誓った。
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