ザ・ラストラン

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 沿線には撮影スポットも多数存在する。踏切、川の土手といった定番スポットから、商業施設の屋上まで。私のラストランをおさめようと撮り鉄ばかりか老若男女がかけつけてくれている。車内にいる乗客の中にも車窓風景を撮影している人がいて、手を振り合って、とても優しい世界だなぁと思った。  運転士が最高速度を設定してくれたので、私は精いっぱい応える。もうおそらく、私はこの速度で走ることができないから。  この走行を終えたあと、私の進退は決まっていない。  あぁ、最後の撮影スポットの十三(じゅうそう)大橋にさしかかる。夕焼け空をバックに、私の雄姿が映える場所。かけつけた撮り鉄に向かって、運転士が軽く警笛を鳴らした。  同時に、私は乗客の気持ちを敏感に感じ取っていた。十三大橋を渡り終えて減速を始めると、やがて終点の大阪梅田駅だ。乗客にもどことなく寂しそうな雰囲気が漂っている。  私だって同じだ。このまま終わるのは嫌だ。だが、私には乗客の思いをしかと受け止める義務がある。それが名車の務めというものだ。  私は乗客全体の重さよりもはるかに重い、ひとりひとりの思いを抱えながら、ゆっくりゆっくりと終点の大阪梅田駅に向けて減速をする。
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