冬の章 エリカの白い花 『越冬つばめ』

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四、 南紀州大学2年 水島涼介  弁当を食べようとしていた水島だが、その言葉を聞いて、(はし)を置いた。 「そうか、自己紹介がまだだったね。名前はさっき言ったけど、水島(みずしま)涼介(りょうすけ)と言います。和歌山県の南紀州(みなみきしゅう)大学2年生で、ヨット部の合同合宿でこちらに来たんだ」 「ヨット部? 晴兄(はるにい)も大学の部活はヨット部だったよね」  今度はエリカが、晴海の肩をつかんだ。 「ああ。鳴門(なると)大学ヨット部だ。で、同じ2年生のヨットマンだ。11月に鳴大(なるだい)南紀大(なんきだい)のヨット部が合同合宿してな……。おっと、その前にエリカ、お前も自己紹介しろよ」  そう言われて、気をつけをするエリカ。 「え? あ、あの、私、名前は、坂東(ばんどう)エリカです。北之灘(きたのなだ)中学校3年生です。よ、よろしくお願いします」  言い終わると、上目(うわめ)づかいに礼をした。 「何だよ、そんだけか。でもまあ、お前にしちゃ上出来だな。ちゃんと、です・ます調で言えたもんな」 「エリカさんは、3年生なんだ。じゃあ高校受験をするんですか?」  涼介が直接エリカに聞いてきた。 「あ、はい。き、北之灘高校を受けるつもりです」 「まあ、そこしかないけどな」 「うるさいな、晴兄は。黙れ」  ころころと態度が豹変(ひょうへん)するエリカを、涼介は目を丸くして見ていた。  それに気付いてか、エリカは涼介に質問をした。 「こ、小島さんは、何でここにいるんですか?」 「そうだね、不思議に思うよね。それはね、北之灘で南紀大と鳴大のヨット部の合同合宿をしたのだけど……」 「ヨットの合宿って? ヨットに乗る練習?」 「そうだね。瀬戸内海は、波は高くないけど独特の(しお)の流れがあるだろ。それがいい練習になるんだよ」 「あっ、それで晴兄11月は、しばらく姿が見えなかったんだ。合宿だったのか」 「今頃気がついたのかよ。そういうことだ」 「でも、今12月だよ。11月に合宿は終わったんでしょ。何で、水島さんがこの療養所にいるの。何か病気になったの?」 「病気じゃないよ、ケガなんだ。合宿が終わったらヨットをトラックに積んで和歌山に帰るんだけどね。その作業の時に、トラックとヨットの間に足を挟まれて骨折したんだ。すぐに君のお兄さんの紹介でここに運ばれたんだ。緊急手術が必要で、滝沢(たきざわ)先生が(すみ)やかに手術してくれてね。その後は、動けるようになるまでここで療養することにしたんだ。ここは、居心地(いごこち)がいい所だよ」  そう言いながら涼介は、窓の外を見た。夕凪の播磨灘が見える。 「え! ……タキマリ先生の手術! それって最悪……先生に痛くされなかった?」  エリカは、涼介の足を見て痛そうな顔をして言った。
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