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五、 エリカと涼介と晴海とタキマリ先生
「ちょいと、エリーちゃん。その最悪って何? あたし、しくじらないので」
その声に、3人が振り向くと、タキマリ医師が、3号室の戸口にもたれていた。返り血を浴びたは白衣は、もちろん着替えている。
「そのセリフ、どっかで聞いたことあるなあ。ちょっと違うけど」
晴海が笑いながら言った。
涼介は、エリカを見て、
「エリカさん、最悪っていうのはちょっと先生に失礼かな。滝沢先生はね、救命救急センターでも仕事をされたことがあるそうなんだ。傷の治りも早かったし。名医だよ」
と諭すように言った。もの言いは優しかったが、エリカは、涼介に言われたことが切なかったのか、すぐに、
「……タキマリ先生。ごめんなさい」
泣きそうな声で頭を下げる。
「はー! エリーが素直に謝った所を初めて見た。いやあ、あたしは別に怒ってるわけじゃないから、気にすんなよ。どうなってんだハル? このエリーの素直さ」
タキマリ医師は、エリカをエリー、晴海をハルと呼ぶのだ。
晴海はエリカを見て、その後顔を振って涼介を目で示す。『エリカは、涼介を意識してる』のサイン。
タキマリ医師は、大きくうなずいた。
「ほお、そういう事か。そうだな。エリーもそういうお年頃だよな」
「何? 何? タキマリ先生どういうこと」
エリカは、晴海の肩を平手で叩きながら言った。
「いてーなあ。なにすんだよ」
と、晴海。
涼介は、そんなエリカに言った。
「お兄さんと先生には、大変お世話になったんだ。凄く感謝してる」
「それより、早く食っちまえよ。タキマリ先生いいっすよね」
「ああ、もう動けるからな、若者は、どんどん食って、どんどん動け! しかし、その弁当うまそうだな」
弁当を食べながら、涼介はタキマリ医師に聞いた。
「入院してからほぼ2カ月です。あの、退院はいつ頃になるでしょうか?」
「うん。今度の日曜だな。今日が月曜だからあと7日で退院だ。そのつもりでいてくれよ」
「あ、はい。ありがとうございます。あの先生それから、ヨットは乗っても大丈夫でしょうか」
「ノープロブレム。がんばって練習してちょうだい」
涼介と晴海は笑顔を見合わせる。
みんな、喜んでいる。エリカは、自分だけ何となく取り残されたような気分になった。
「ねえ、ねえ。明日から毎日、私が弁当を運ぶよ」
エリカが突然宣言した。
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