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六、 エリカの新しい仕事
「え! そりゃいいけどよ。お前が自分から手伝いを買って出るなんて、信じられねえな。おったまげーだぜ」
晴海が茶化す。
「ちゃんとやるから! やらせろよ」
エリカは、むきになって言った。
「今のは、坂東の言い方がよくないな。エリカさんはせっかくやる気になってるんだ、それを大事にしないと」
今度は、晴海が涼介に諭された。
「あ……。エリカさん、すんません」
頭をかく晴海。
「おう。晴兄にしては素直じゃないか。ゆるしてやるよ」
エリカは、ふんぞり返る。
「立場逆転かよ。ゆかいな坂東兄妹だな」
タキマリ医師は、笑いながら言った。
「じゃあ、明日から下校したら、すぐに弁当を持ってくるね。タキマリ先生いいよね?」
すがるようにタキマリ医師の顔を見るエリカ。
「そうだなあ……。療養所は療養所の食事があって、規則上はいかんのだが、あたしがルールブックだ。特別サービスで許す!」
「やった!」
いつもは仏頂面のエリカだが、この時ばかりは目を細めた。
翌日。
「ママ! 療養所に持って行く弁当ちょうだい!」
下校したエリカは、玄関口から台所の母を大声で呼んだ。
「はーい。今日のお弁当はね、チキン南蛮よ。しかも出来立てだから」
小走りで母が、昨日同様、四角い包みを持って来る。
包みを受け取るエリカ。
「ああ、まだ温かいよ。水島さん喜ぶよ。早く届けなきゃね」
トートバックに弁当を入れながらエリカは、ほほ笑んだ。
「慌てなくていいからねエリカ。ママの料理は冷めても美味しいから。くれぐれも気をつけてね。でも、助かるよ。エリカがこんなにお手伝いしてくれるなんて」
「私も、中3だし、やる時はやるよママ」
「いい心掛けね。じゃあよろしく!」
「行ってきます!」
エリカは、勢いよくドアを開け、山の中腹の北之灘療養所に向かって走り出した。
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