時間の色に染まる

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祖母は、94歳の天寿を全うした。 亡くなる前の年の梅仕事は、どちらかというと私が手を動かし、祖母は口だけ出す、という感じだったけれど、やっぱり楽しかった。 私が20歳になって、お酒を飲めるようになった頃からは、藤田さんが、お手製の梅酒を持ってきて、それを3人で飲み比べるのも、毎年恒例のことになっていた。 藤田さんはなかなかの研究家で、「氷砂糖の代わりに黒糖を使ってみた真っ黒い梅酒」とか、「青い梅と、黄色い紀州梅のブレンド梅酒」とか、実験的な梅酒を毎年作成していて、それを3人で飲み比べては、意外とおいしいとか、コクが足りないとか、研究の余地あり、なんて言いあいながら、梅酒を楽しむのは、たまらなく楽しかった。 あのささやかな3人の梅酒会が開かれることは、もうない。 祖母が亡くなって一番寂しいのはそのことかもしれない。 ずっと続くものではないとわかっていたつもりだったけれど、それが現実になったことが信じられなかった。
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