時間の色に染まる

11/15

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
もっと信じられない現実は、次々に降りかかってきた。 まず、私は、祖母の孫ではなかったこと。 私は亡くなった母の連れ子で、私が父と思ってきた祖母の息子は、母とは内縁関係でしかなかったらしい。 その父が亡くなってもうずいぶん経つことも、二人の叔母から聞いて驚いたが、二人の叔母たちは、私が自分の出生について何も知らず、知ろうともしてこなかったことに、もっと驚いていた。 「この子は意外と迂闊なところがあるから」 祖母の声が思い出される。 身内だけのささやかな葬儀がひととおり片付いて落ち着いたころ、二人の叔母が連れ立ってやってきた。 そして、慎重に言葉を選びながら、 「急がないけれど、この家は売却することにしたから、出ていってほしい。  母があなたをとてもかわいがっていたことは知っているから、持っていきたいものがあれば、なんでも持って行って構わない。でも、あなたは相続人ではないからそのあたりはわかってほしい。」 というようなことをとても言いにくそうに、でもはっきりと私に言った。思わず、「私がこの家を買い取るのはダメですか?」と聞いたが、家は古くても、そこそこの広さがあり、場所の良いこの土地の値段は、私にどうにかできる額ではないことは察しがついた。 「相続手続きもすぐに終わるわけじゃないし、家を明け渡すのは、1年後でいいから。」 と言ってくれた叔母たちは、決して意地悪でもなんでもなく、良識的な人たちだと思う。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加