時間の色に染まる

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今思えば、ずっと下宿を営み、たくさんの店子さんに慕われていた祖母が、人付き合いが苦手なわけはない。 近所づきあいを控えていたのも、私が中学から、少し遠くの学校に通うことになったのも、決して関係の悪くなかった二人の叔母と、わたしが会う機会があまりなかったのも、すべては「私に余計なことを言う人をできるだけ近づけたくない」という祖母の配慮だった、と思えば、辻褄があう。 「去年と今年の分の梅酒は、悪いけど、このまま預かっておいてほしいな。 この家のオーラみたいなものも、梅酒のおいしさの秘密だと思うんだよ。 あとは、この家の時間は、とってもいい琥珀色だから、きっといい色に染まるはず。」 ちっとも法律家らしくない、ファンタジーなことを言って、藤田さんは帰っていった。
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