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私は、梅仕事が好きだった。
毎年、梅の季節が来ると、祖母は、いつもの近所のスーパーではない、
地元の大きな産直センターに行って、青くつやつやした梅を買いつけて来る。
「明日、梅が届くよ」
と夕食で言われたら、その週末は、梅仕事の日、と決まっていた。
軽トラで届いた小ぶりのコンテナ二つ分の梅のうち、一つは梅干し用で、もう一つは梅酒用だ。
梅干し用の方は、軽く洗ってからざるに広げ、数日間乾燥させる。
梅酒用の方は、キッチンのテーブルに梅を広げて、傷がないか、ひとつひとつ吟味して、丁寧にへたをとる。
傷があったり、少し艶の少ない梅は、梅干し用のざるに移動させた。
そうして、選ばれし梅達だけが、祖母の梅酒になることを許された。
大きな瓶二つを煮沸消毒して、しっかり乾燥させてから、丸々と艶光りした梅の実と、宝石みたいな氷砂糖を層にして入れて、最後にアルコールを注ぐ。
床下収納から2年前に作った梅酒の瓶を取り出し、空いた場所に、今日の日付を書いたシールを貼り付けた、今年の梅酒をしまい込む。
そのすべての工程が私には魅力的だったけれど、なんといっても、床下から梅酒の瓶を取り出す瞬間が、たまらなく好きだった。
私が持っていた色鉛筆の、黄色とも、オレンジ色とも、茶色とも違う、深い琥珀色に染まった梅酒は、本当に美しかった。
「梅の実は緑色でしょ?一緒に入れるお砂糖もお酒も透明なのに、どうして梅酒は黄色くなるの?」
そんなことを聞いたのは、小学生の低学年の頃だったと思う。
「この色はね、琥珀色、って言うんだよ。」
と教えてくれてから、祖母は、味見、と言って地下から出したての梅酒を入れたコップをくるくる回す手をふと止めて、
「そんなこと、考えたこともなかった。そういえば、不思議ねえ。」
感心したように呟いた。
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