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「恋と言うのは、夕焼けみたいなもんだ」
いつの間にか目の前の酔っぱらい大沼は訳の分からない持論をぶちかましてきていた。
「……そうだな」
全弾を全く聞いていないのでさっぱり分からないが、とりあえず同意してみる。
これで黙ってくれないだろうか。
「分かるか? 夕焼け。あの真っ赤に染まる川べり。見るものを容赦なく魅了する力があるだろう」
なぜ川べり?
もちろんそれに対する解など存在しない。
「恋も同じだ。それを見てしまったものは、容赦なく心奪われる。ある意味暴力的で刹那的と言ってもいい。つまり夕が焼けると書いて夕焼け。英語で言うと……ユウヤーケ」
大学生の専門外における知識などこの程度である。
ましてや今の大沼は酒に浸されている。雀か鳩のほうが恐らく今は賢いだろう。
「俺はな、春日井さんと言う夕焼けを見てしまったのだ。だからこそ心奪われた。俺は春日井さんに染まってしまったのだ」
金がなくて暇のある大学生は、自らの生み出した妄想世界に浸りすぎて偽詩人になってしまうことがある。そうして生まれた偽詩人と酒は最低の組み合わせである。壊れた蛇口から出続ける水は、それでも水である限り利用価値がある。だが、酒浸しになって壊れた偽詩人の口から垂れ流される言葉には利用価値がない。いや、シンプルに価値がない。
「夕焼けの時間はすぐに過ぎるぞ。夜が来ることについてはどうなんだ」
「黙れ凡人!!」
褒められた。
「恋とは永遠のものではない。なぜそれが分からないんだ、このゴミ虫君めが」
ゴミ虫がいかに地球環境に帰依しているか。
表現と酸素を無駄遣いしている目の前の男より、数倍役に立っているに違いない。
「恋はやがて愛に代わる。つまり夜は愛だ。大人の時間と言うだろう。夕焼け空に恋し、夜空の星を見て愛を知る。つまりはそれが恋愛と言うものなのだ」
「そ、そうか……」
偽詩人はだらだらと口から言葉を垂れ流した。
「お前のような非ロマンチストがいるから、世界から戦争がなくならないんだぞ」
むしろロマンチストこそ主義主張をめぐって争いそうな気がするのは僕だけだろうか。
とにかく、ちょっとした好奇心で催した酒宴は大地獄と名乗るに値する苦痛を僕に与え続けた。
深淵を覗き込んだらなんとやら。僕はそんな言葉を思い出しつつ、心を無にすることに徹するしかなかった。
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