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それまでは大した感情を抱くこともなかった人物がいるとする。ちょっと関わりが深くなることでその人物に対する感情も変わってくる、と言うのは良くある話だ。
僕にとって、春日井さんに対する感情はまさしくそれだ。
大沼のために春日井さんの行動を本人公認で追うようになってからと言うもの、僕の心には小さな春日井さんが住み着くようになった。心に住み着いた春日井さんは、毎日のようにせっせと僕の心を彼女の色に染めていった。
気が付くと僕の目は春日井さんを探すようになっていた。
あれほど面倒だったゼミの日も、春日井さんに会えるというだけで楽しみにすらなった。
もちろんだからと言って課題にまじめに取り組むなどと言うことはなく、教授からは侮蔑の目で見られているが。
「おはよ、瀬尾君」
春日井さんも以前より気軽に僕に声をかけてくれるようになった。
「おはよう」
平静を取り繕うことのなんと難しいことか。
「どないしたん? なんか酒臭ない?」
大沼と飲んだ翌日はゼミの日であった。
朝風呂に入り、水も大量に摂取したが、体内から染み出してくるアルコール集を完全に除去することはできなかった。正直、このコンディションで春日井さんに会うことに抵抗まであった。
今まではそんなこと気にしたこともなかったのに。
「昨日、大沼と飲んだよ」
「……ああ」
俺の言葉だけで春日井さんはいろいろと察してくれた。
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