恋のクロマトグラフィー

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この特殊なA4サイズの白い試験紙。どこにでもありそうな紙だけど、特殊な加工とコーティングがされており、用紙に直接指で触れると、触れた人の精神状態に反応し、紙が変色し色が滲み出てくる仕組みだ。  その色によって、その人が今置かれている心理状態が判断できるという代物。  これは心理療法や精神分析の分野で活用できる、画期的な世紀の発明なのだ!!  ……では試しに、今、私がこの試験紙に触れてみようではありませんか。  パッと見、なんの変哲もない白い用紙の、その端の真ん中を指で摘まむ。  すると不思議なことに、指の触れている紙面から色が滲み出てくる。  指先の回りから明るい朱色が、じわじわと放射線状に広がっていく。  広がっていく先は、朝焼けの様に燃えるような赤色から、明るい希望を感じさせられる黄色へと変わり、黄緑から水色と拡がっていく。  この色!  まさしく今、私が置かれた心の有り様!  希望と情熱に満ちた輝かしい色彩!  大成功だわ!  これで私も……フフフッ……  誰もいない研究室なのをいいことに、私は何度も込み上げる嬉しさを隠すこともせず、顔を緩ませてしまう。  私もこれで一躍、有名人!?  これを学会に発表すれば……  でも……  本当はそんなことはどうでもいいの。  この研究の本来の目的は別にあるの。  それが実現する喜びに比べたら、そんなことはどうでもいいわ。  
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