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今朝のことはあまり覚えていない。
慌てて助教授の控室を飛び出したところまでは覚えているけれど。
あぁ……気分はすごくブルー
一人研究室に戻っては、机にうっぷしたまま、一日が終わろうとしていた。
もう、なんにもする気がしない……
まさか……柴田助教授が、あんな人だったなんて。
彼は自分の研究と出世の事しか興味が無かったんだ。
私によくしてくれたのも、研究成果を横取りしようとしていたのよ。
あぁ……もう、何を信じて生きて行けばいいんだろう……
「大村さん? まだ残ってるの?」
「え? ええ、まぁ」
扉から顔を出してきたのは湯川君。
ショックのあまり塞ぎ込んでいた私は、いつの間にか真夜中になっていたことにすら気付かないでいた。
「どうしたの? 今日は朝から元気ないみたいだけど?」
「ううん、べつに……」
「昨日の夜は、あんなに嬉しそうだったのに?」
「えっ? ええ、いろいろと……あってね。それよりも湯川君もこんな時間まで実験?」
「いゃ~ 僕はべつに……」
ばつの悪そうに頭をかきながら、照れくさそうにそう返してきた。
「そういえば湯川君も、いつも帰り、遅いわよね」
「……」
あれ? 急に黙り込んで、言葉が出てこなくなる?
なにか変なことでも言ったかしら?
「いや、その、僕は……」
「……?」
「僕は別に研究で残ってる訳じゃなくて」
「…………?」
「あの、大村さんのことが、心配でね」
「…………え?」
私のことが心配?
確かに、研究に夢中になると周りが見えなくなる性格ではあるけど。
別に心配されるようなことは?
「ほら、夜遅くまで1人だし、何かあったら大変だなって」
「別にそれくらい…………」
「言いにくいんだけど、助教授の件もあるし……」
……確かに良い噂は聞かなかった。
誰かの研究内容を盗んだだとか、セクハラまがいのパワハラを行ったりだとか。
でもそれは所詮、噂だと思っていた。
誰かが嫉妬しての妄言なんだと。
実際に、私はそんなことされてなかったし。
……って、もしかしてそれは湯川君が知らないところで私を守っていてくれたから?
こんな時間まで残ってくれて、助教授の魔の手から私のことを?
まさか!? まさか……ねえ……
「ああ、気にしないで。大村さんも、もし帰るなら途中まで送るけど?」
「え? ええ、まぁ、そうね、もう今日はすることないし」
と、帰り支度をしようと、机から立ち上がった弾みで、
あっ!
積まれていた専門書やら書類が崩れて床に散らばってしまった!
「あ~ もぅ~」
「大丈夫?」
散らばった書類やらを湯川君が一緒に拾ってくれる。
「ごめんね、ありがとう」
「……あれ? 大村さん? これ、なんだか凄いんだけど?」
あっ!
どうやら今のでサイコクロマトグラフィーの用紙も床に落ちてしまったようで、その一枚を湯川君が拾い上げてしまっていた。
そして掴んだ部分から……色が染まっていく。
その色というのが……
まるで日の出のように黄金色をしたオレンジ色!?
そこから扇状に枝分かれするにしたがい……
木漏れ日のように暖かく眩しい黄色。
新緑の山々のような爽やかな緑。
渓谷を流れる生き生きとした流水のような透き通る水色。
そして……色鮮やかな虹色の扇子を広げたような、美しい色彩に染まっていった。
うそ……すごく、綺麗。
これって、もしかして相手に対して好意的な心情?
いえ、それ以上の?
好きとかの次元じゃ無くて?
好きとか恋と言うよりも、もっと上の次元の感情?
愛!?
誰の誰に対する?
え?
ええ――!?
湯川君が?
私にい――!?
え? 嘘でしょ?
ええっ?
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