恋のクロマトグラフィー

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「ごめん、大村さん。もしかしてこれって、大切なものだった? 色、付いちゃった。ごめん」 「あ…………あ、うん、大丈夫。うん、だぃじょぅぶ……」  ……  …………  もう一度確かめなくては。  まさかそんな?  この私が? 「あ、あのね、お願いがあるんだけど?」 「え? どうしたの?」 「この用紙に、もう一回だけ触ってもらいたいんだけど、いいかな?」 「うん、いいけど?」  私はファイルに入った試験紙をもう一枚用意する。  確かめないと、彼の本当の気持ちを。 そう、これは科学の実証試験よ。 別に湯川君の気持ちが本当かどうか確認したい、という下衆な考えなんかでは決して違う! 「今から渡す紙の端っこを、摘まんでもらえる?」 「これみたいに?」 「うん。で、その時になんだけど、私のこと……見ながら、触れてくれる? かな?」 「え? うん、分かった」  私は慎重に湯川君に紙を渡す。  ……が!?  しまった!!  私も手袋しないで、素手のまま試験紙を触ってしまった!!  彼は言われた通り、試験紙の端を摘まむ。  すると先程と同じように  そして、私が今、触れている紙面からも……  赤くて明るいオレンジの色が染み込んでいく!?  これって……私って、湯川君のこと……  二人でお互い、両端を摘まんでいるサイコクロマトグラフィー試験紙は、端から中央へと情熱の赤い色が染みこんで行き……  中央でお互いの手を取り合う様に絡まり合い、抱き合う様に混ざり合って、鮮やかな虹色の光を放つ。 「大村さん、すごいねこれ!? これが研究の成果?」 「え――っと、その――」   凄いって、この色のこと? 私のこと?  「とっても綺麗な色だね。本物の虹みたいで」 「そ、そ、そうね」  綺麗って、この色のことだよね?  私のことじゃないよね!?  なぜか意識すればするほど直視できない!?  さっきまで普通に接してたのに!?  いやだ、どうしよう……  もしかして、今……  私の顔って……  赤く染まってるんじゃないかしら……
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