鬼塚守

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「わたしは、ここから離れられぬのです」  少女は桜の花のように――本当に儚く微笑んだ。  ――――――――――  ――それは卯の月にもなったというのに、少し肌寒い日のことだった。  その場所を尋ねると、気のいい茶店の女は「ああ、それなら近くに行けばすぐに分かりますよ」と教えてくれた。  果たして、その言葉通り、近づくにつれてその場所はすぐに分かった。  里を離れてぽつんと建つ屋敷。そして、その裏には墓石の代わりか、積み上げられた石の柱が一つだけある大きな塚がある。  まるで寺のようだ――知らぬ者が見たならば、そう感じたかもしれない。だが、その屋敷が寺でないことは知っているし、知っているからこそ私はここを訪ねたのだ。  逸る気持ちを抑え、私は歩き出す――と、その屋敷から一人、竹箒を手にした真白い着物の袴姿の少女が出てきた。  歳の頃は十二、三というところだろうか。短い黒髪に白い肌。まだ遠目だが、それでも美しいと感じる少女の姿。思わず目が奪われ、屋敷の裏へと歩いて行く少女の後を私は知らずに追いかけてしまっていた。  屋敷の裏、その大きな塚の前で少女はしばらく手を合わせると、石の積まれた碑のようなものにかかっている葉を一枚一枚丁寧に取っていった。  葉を手に収め、それを塚から少し離れた場所に置くと、次は塚に足を進め手にした竹箒で掃いていく。日常のことなのだろう。流れるように無駄のなく、少女は塚の掃除を行っていた。  だが、それよりも近づくにつれてわかる少女の可憐さ。儚げともいうのか、汚れのない真白き着物がよく似合い、より少女の美しさを際立たせていた。  黙々と掃除をする少女に見惚れ――いや、これでは覗きではないかと我に返り、私は塚へと、少女へと足を向けた。ここまで意識が向いてしまったら、話しかけずにはいられなかった。  近づいてくる私に気づいたのか、少女はスッと視線を向け会釈をしてくれた。どこかの御姫様(おひいさま)かと思うような綺麗な仕草。私もにこと笑い、足を踏み出し――だが、じっと見つめてくる少女に気づき塚の前で足を止めた。
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