1.檜舞台

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1.檜舞台

 夢だった舞台。子供の頃から思い描いていた舞台。  小学生の時にボールを蹴ってから、大人になった今も変わらずにボールを蹴っている。ボールを蹴ることを生業としている。  そんな人間にとって、特別な4年に1度の舞台。サッカー・ワールドカップ。日本で開催されるこの檜舞台に立てるなんて、日本で生まれ育ったサッカー小僧にとって、これ以上の喜びはないと言っていいだろう。  今日はワールドカップ・グループステージ第1戦、日本対スウェーデンの試合が行われる。舞台は埼玉県。首都圏ということもあり、スタンドは日本代表のカラーである青一色に染まっている。これは正しくホームアドバンテージというやつだ。  スウェーデン代表の応援団もいるにはいるのだが、その黄色は周囲の青に完全に飲み込まれてしまって、まるで都会の夜空と星のような関係だ。  試合前練習でピッチから感慨深げにスタンドを見渡していた俺に、よく知った顔が声を掛けてきた。 「おう。調子どうだ?」 「最高だよ。ケイちゃんはどうよ」 「まあ、夢叶って、最高ではあるな」  高校時代同じサッカー部で汗を流した俺とケイちゃん。互いに夢を叶えて今、ワールドカップの舞台で同じピッチに立っている。  しかも高校時代の仲間は俺たちだけではない。その時、丁度もうひとりの男が姿を表した。大きな背丈の日本代表ゴールキーパー・タケオだ。  タケオは昔と変わらず豪快な口調で問いかける。 「アサヒ! どうだ、ゴール決められそうか!?」 「調子はいいよ」 「ほう、そいつは楽しみだぜ!」  俺・アサヒとケイちゃん、そしてタケオ。  俺たちは同じ高校のサッカー部で同級生。3年生の時には共に全国高校サッカー大会で上位進出の活躍をした盟友だ。  そして卒業の時、誓い合っていた。絶対に4年後の22歳、日本で開催されるワールドカップに出場しようと。  その誓いは今日、果たされたのだ。
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