2.夢を叶えるために

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2.夢を叶えるために

 ケイちゃんは特に認められるのが早かった。高校を卒業してすぐに海外の名門サッカークラブに入団して、しかも結果を出した。20歳になる頃には日本代表にも選出されていた。  タケオはここ1年で評価を高めた。高校卒業後に日本のサッカークラブに入団すると、3年目の昨年、レギュラーの座を掴んでそのまま日本代表へと選出された。そしてこのワールドカップメンバーに名を連ねた。  俺はと言えば……今日ここに来るために一番苦労をしたと言える。 「――なあ、アサヒ」  タケオが俺を呼ぶ。 「なに?」 「お前、後悔してねえのか?」 「……後悔なんて、してないよ。夢が叶ったんだから」  ケイちゃんは俺の方を見ると、呆れたように首を振りながら言った。 「確かに3人の夢は叶ったけど、1人ユニホームを間違えてないか?」 「小さいことは気にすんなって」  俺は返しながら、肘でケイちゃんの脇腹を小突いた。  ――俺、檜山朝陽は、今はアサヒ・ヒヤマ。  サッカースウェーデン代表のメンバーだ。  高校を卒業し、国内外のプロスカウトから総スカンを食らった俺は、単身スウェーデンへと渡った。スウェーデンにした理由? なんとなく。  そこでプロテストに合格して、スウェーデン南部のヘルシンボリという街のクラブに入団した。  そこで頭角を現し、スウェーデン国内リーグのみならず、ヨーロッパの舞台でも徐々に結果を出した。  しかし現・日本代表監督は、俺を代表メンバーに招集することは無かった。俺もかなりアピールしたし、サッカー好きのSNSなんかでは、北欧の点取り屋・檜山朝陽待望論なんかも持ち上がり、雑誌なんかでも「日本代表の秘密兵器」として紹介されたりもした。  しかし、ワールドカップに臨む日本代表メンバーの中に、最後までオレの名前は無かった。  そんな時だ。スウェーデン国内リーグでの長きに渡る活躍を評価されて、俺はスウェーデンへの帰化とスウェーデン代表入りを打診された。  日本という国は二重国籍を認めていない。つまり、俺は帰化したら完全にスウェーデン人となり、法律上日本は外国ということになる。  ……それでも俺は夢を叶えたかった。  母国・日本開催のワールドカップの舞台に、どうしても立ちたかった。  例え、背負う国旗が違ったとしても。  家族や友人と、違う国民になったとしても。
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