花を弔う

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 トピアリーは今日も花の世話をしていた。  庭はそれほど広くない。だから作業はさほど難しくはない。トピアリーは生まれてこの方ずっと、ここにいる。この10平米ほどの地下庭と、そこに繋がる細い廊下と、それから同じ程度の広さの寝床。それだけがトピアリーの世界だった。だから、この狭さに不満に感じることもなかった。  種を植え、花を咲かせる。この花は実を植えれば翌日には咲く。  植えるのはいつも10本ほど。パルテールはこの畑の広さで土地の栄養を考えれば、健やかに育てるには、その数が限界だと言う。咲けば両手のひらをくっつけたほどの大輪で、ありとあらゆる色の花が咲く。ここは地下だから薄暗い。だから全ての彩度は色あせている。けれどもその花の色を確認するためにパルテールがランタンに火をつけるときだけは、その花の色で世界は様々な色に染まった。 「パルテール、今日はこれで終わり?」 「ああ。お疲れ様。もう休むといい」  トピアリーはパルテール以外、この世界で動く存在を知らなかった。だから二人でひっそりと生きていて、それに疑問も不自由を感じることもなかった。   トピアリーにできることはさほど無い。寝床と庭を往復するだけだ。ともあれ、やることがあるだけよいのだ。何故ならこの世界は滅びかけ、資源などほとんどなかったからだ。  パルテールと手分けして、其々がやれることをやる。仕事が終われば静かに休む。カロリーを消費しないように。  トピアリーの仕事は花を育て、パルテールが収穫してそれを売りに行く。そして新しく花の苗を買ってくる。そのためにバルテールは1日1時間ほど外に出る。  その間、トピアリーは寝所のすみで一人でじっとしている。その時間がとても嫌だった。パルテールがもう帰ってこないのではないか。あるいはパルテールに事故か何かがあったなら。そんな不安に苛まれた。そしてちゃんと帰ってきた時は、心の底からホッとして、にこりと微笑んだ。遅くなれば不安にかられてパルテールを怒鳴ることもあったけれど、それはすぐに反省した。  最近は遠くまでいっているらしいから、それにつれて帰りが遅くなっているのだ。 「どうして僕も一緒に行っちゃ駄目なの?」 「トピアリーはまだ小さいから駄目だ」 「じゃあパルテールくらい大きくなったらいいの?」 「……その時に考えよう」  パルテールのいつも同じ答えにトピアリーは不満を感じる。  けれどもパルテールより小さいのだから仕方がないと無理に納得する。それにパルテールとの身長差は少しずつ縮まっていたから、そのうち一緒に外に出られるはずだ。  パルテールはトピアリーの頭を撫でた。 「もう寝る時間だ。たくさん寝ないと大きくなれないよ」 「じゃぁお話して、全の木と種の話」 「トピアリーはその話が好きだね。他にも色々あるんだよ」 「でも何故だかこの話が一番好きなんだ」
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