花を弔う

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 無謬の木は速やかに育ち、登録者を庇護した。  それぞれが実をつけてそれを食べ、その柔らかな繊維で服を作り、そのうろに人は住んだ。ようやく人は、衣食住を兼ね備えたのだ。そしてそれで最低限は事足りた。人が働かずとも暮らしていけるようになった。  その後、不思議なことが起こった。  木と人は相互に影響しあった。木は様々な花を咲かせた。観測してみれば、人の感情の色によって咲く花の色が違うようだ。怒りっぽい人の木は赤い花が多くなり、もの静かな人は青い花が多くなる。楽しげな人には黄色い花、不安そうな人には紫色の花。  けれどもその色鮮やかな世界は長くは続かなかった。  もともとは様々な色が咲き乱れていた木々は、その色を収斂させていく。例えば赤の花を咲かせる者は赤い花を中心に咲かせるようになった。  次第に同系統色の木を持つ人間がよりあつまって暮らすようになり、一つの地域は同じ色の花ばかり咲き、同じ色に染まるようになった。  一つの場所は同じ色に染まる。その傾向は増大し、固定化した。  人が同系統の色の花を咲かせることができなくなれば、その場所を追い出され、同じ色の木のところに移住するようになった。移住は問題なく受け入れられた。なにしろ、同じ感情を抱く者たちが住んでいるからだ。  その理由がわかったころには手遅れだった。  木に依存しきった人間は、その木に支配されるのだ。  赤色に染まった地域に住む人間は怒りに身を押さえられなくなり、青色に染まった地域に住む人間は悲しみにくれて過ごした。  それぞれの色と感情は相容れなくなり、対立が深まり、誰かが最初に他の色に染まった誰かを傷つけたのをきっかけに、色ごとに戦争が始まった。  その結果、全ての色が滅び、登録者を失ったそれぞれの無謬の木もまた、全て枯れた。  全てが滅び、土色に染まったその世界をみて、全の木はとても悲しんだ。  けれども全の木もまた、人に依存していたのだ。人を守り育てるための木は、今も実をならせ、もとのように色々な花を咲かせることのできる人の訪れを待っている。  トピアリーは色というものがよくわからなかった。  自分が育てる十本ほどの花はそれぞれはとても綺麗だけれどたった十本で、そしてトピアリーの世界はとても狭い。だからその色で広い世界が満ちるということが想像つかなかった。  だからその光景を見たいと思っていた。 「どうしてみんな争ったんだろう」 「どうしてだろうね。トピアリーならどうする?」 「僕ならきっと、みんなと仲良くなれる、もの……」  いつのまにかトピアリーは眠りにつく。  パルテールはトピアリーに、この物語で世界はどうすればよかったのかを何度も問いかけた。そしてパルテールはトピアリーの様子を注意深く眺め、その答えを真剣に聞いた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加