本を忘れた

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本を忘れた

 私は小さい頃から忘れ物などしない子供だった。    反対に姉は忘れ物が多く、今より50年も前の事だったし、とても田舎だったので、忘れ物をすると家に取りに帰らされていた。  おまけに忘れ物を取りに帰っている途中なのに、道草に一生懸命になって虫やカニを捕まえていたりして家にたどり着かないこともあったと言う。  もしくは家についても何を忘れたのかを忘れてしまって、ぼ~ッとしていることもあったらしい。  勿論学校からは忘れ物を取りに帰らせましたと家に連絡が来ているので、家でも心配して待っている。  家まで忘れ物を取りに帰らせる何てことはその当時でもあまりなかった事なので姉がいかに忘れ物が多かったかがよくわかる。  そんな姉は、その後世界選手権に出るほどの卓球選手になり(今だったらOP候補だっただろう)今は、幼稚園から小学校までの子どもを教え、全国に出場するほどの選手を育てる監督になっている。  さて、小3のその忘れられない日、私はあろうことか返却期限がその日だった図書館の本を家に忘れてきてしまった。  忘れたことを自分で思い出したのだ。  職員室に行って電話を借りて家に電話した。 「おかあさん、図書館の本、今日返さなきゃいけないのに忘れちゃった。」 「どこにあるの?机の上本ばっかりでお母さんじゃわからないわ。」  このままでは、自分で取りに来いと言う話になってしまう。それだけは避けたかった。みんなにばれるのは恥ずかしいし、私は学校では良い子だったので見栄もあった。  激昂しそうな母を落ち着かせるように 「ねぇ、よく聞いて、言ったところにあるから探して。」 「机の上にはないの。机についている本棚あるでしょ?その右から二番目にある○○というタイトルの本だから。ちょっと見てきて。」 電話を保留にしたまま見に行ってもらった。 「驚いた。あんなごちゃごちゃの机なのによくある場所覚えてたね。」 「持ってきてくれる?」 「わかった。」  本がすんなりと見つかったことで、母の怒りもおさまり、学校まで母がバイクで持ってきてくれた。その頃は母はバイクの免許しか持っていなかったのだ。  家に帰ってから机の上の整理をさせられた。私は整理整頓がとにかく下手なのでいつも机は宿題をするスペースしか空いていなかった。でも、ごちゃごちゃでも、自分では何がどこにあるかは把握しているという事がこの日に証明されたのだった。いや、きちんと整頓しなさいという事なのだけれど。  めったに忘れ物をしなかったので小学校の間に唯一忘れ物をしたこの日の事は鮮明に覚えている。  自分が忘れ物をしたことのショックと、母を怒らせてしまうと言う恐怖の狭間にいたのだと思う。  どきどきして、未だに忘れられない忘れ物のお話しでした。 【了】
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