鬼神勇人

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 青年は彼女の反応など気にせず、楽し気にペラペラと話す。その後、彼女の顎に手を添え、無理やり自分の方へ向かせた。 「あ、あ……」 「あぁ、やっぱり。君は美味しそうな匂いがする。ねぇ、君。私のモノになってくれない?」 「へ!?」  彼女の目の前には、色白の肌に黒い髪。赤い布が目に入った。 「素敵だぁ。君は本当に素敵だよ。こんなに可愛くて、美味しそうで、私好みの女性。霊感もありそうだ。ねぇ、私のモノになって? 頷いて? 早く」 「い、いや!!!!」  ドンッ!! と青年を押し逃げだそうとしたが、散乱している机の脚にひっかかってしまい転ぶ。  ガラガラと音が鳴り「いったぁ」と立ち上がろうとしたが、後ろからの悪寒に動けなくなる。  上から覆いかぶらされ、立ち上がろうと床についていた手に、大きな男性の手が被さった。  もう駄目と、目を閉じた――――その時。  ガラッ  ドアが開き、人が来た事を知らせた。  彼女は助けを求めるように前へと手を伸ばし、涙を流しながら「助けて」と、掠れた声で叫ぶ。だが、ドアを開けたスーツを身にまとった男性は、そんな二人の姿を目にした後,顔を抱え大きなため息を吐いた。 「まったく…………。何をしているんですか鬼神様。女性が怯えているではありませんか。普通なら犯罪者となっています。早く避けてあげてください」  冷静に言い放つ男性。その事に面食らい、彼女は大きく開かれた目で、目の前に立つ男性を見上げた。 「怖がらせてしまいすいません。この人は大丈夫なので気にしないでください。鬼神様は、渋っていないで早くどく!!!」 「……………………ぶー…………」 「子供のようにふてくされないでください。貴方はもう大人でしょう」 「ぶーぶー」 「いいから早くどく!!!!」  ゴロンっと。怒りの声を上げながら、男性は彼女の上に乗っかていた青年を転がした。  やっと体が自由に動くようになった彼女はゆっくりと立ち上がり、震える体を抱きしめ、二人の男性を見る。  よく見ると、彼女に覆いかぶさっていた青年は目元に赤い布が巻かれており、黒いローブで身を包んでいた。頬を膨らませ、目の前に座っている男性をポコポコと叩いていた。 「もう、もう!! 彼女は私のだよ!! 私のなんだからぁぁぁああ!!!」 「はいはい、わかりました。わかりましたから落ち着いてください。大の大人がそんな風に喚き散らしても誰も得しませんよ。早く謝ってください」 「嫌だ」 「…………餓鬼」 「な!! 私は餓鬼ではない!!」 「はいはい」  今だふてくされている青年を無視し、彼女を助けた男性が立ち上がり彼女の前で片膝をついた。 「驚かせてしまい申し訳ありません。私達は、そうですねぇ。…………霊媒師を名乗らせていただいている者です」 「れ、霊媒師?」 「はい。私の名前は犬神時雨(いぬがみしぐれ)。あちらの変態は鬼神勇人(きしんゆうと)様です。私が仕える主となります」 「え、主? 貴方が、仕える方?」 「よく言われます。ですが、力だけなら鬼神様の方が上です。力だけならね」 「力だけなら?」 「はい」  一拍置いて、時雨は口を開いた。 「鬼神様は、霊を見る事が出来ないのです」
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