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メイド時代のことを知られて、嫌われたらどうしよう。
そればかり考えて不安に押しつぶされそうになっていたけれど、私、このままあなたの妻でいていいの?
「でも、どうしてゆまりんのことを……?」
「それは俺が〝くもっち〟だからさ」
「八雲さんが……くもっち……?」
ぽかんと目を瞬かせて、オウム返しする。
すると八雲さんはおもむろにジャケットの胸ポケットから眼鏡を取り出して装着した。
いつも家で掛けているお洒落眼鏡ではなく、目の大きさが違って見えるほどレンズが分厚いいわゆる〝ビン底眼鏡〟。
それから、きっちりセットされた前髪に手を差し入れてぐちゃぐちゃと散らした。
その姿を見て瞬時に懐かしさがこみ上げるとともに、信じられない思いで口元を手で押さえる。
「嘘……本当に、くもっちだ……」
待って。じゃあ会社でチェキを見せてきたのって、そこに写るメイドが私だと気づいたからではなく、自分の正体がくもっちだと明かすため……?
だとしたら、ヒヤシンスの花言葉〝ごめんなさい〟も――。
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