4人が本棚に入れています
本棚に追加
名前
入学式から数日。桜久は鞄に念入りに教科書をしまった。自作の暗記ノートもしっかりと。
初めての試験である。
桜久の住む地方都市では、中学受験は一般的でない。公立小学校から公立中学へ自動で上がる進路が最もスタンダードだ。
彼女も例に漏れず自動的に進学したが、中学受験はしないのかと周りにせっつかれる程度には成績が良かったため、定期試験を楽しみにする稀有な少女となっていた。
元来負けず嫌いな性格である。順位を競うのは嫌いではない。
しかし、校則のど真ん中を守る野暮ったさと手を加えていないセミロングの髪。根暗で声の小さいところから本当の桜久を知る人は少ない。
現にクラスでも多少浮いた存在だ。お洒落には興味がなかった。髪も、寝ぐせがついていない限りは細かいことを気にしなかった。
自分の顔にも特別な感情はない。最近増えてきたニキビだけは、早く治ってほしいと思っていた。
華やかな女の子たちが仕切る教室は居心地が悪かった。
新しいクラスになって間もなくで、大体のグループはメンバーを固める。桜久も数人のおとなしい子が集まるグループに属した。メンバーはアニメ好きが多い。桜久はアニメに詳しくなく、かと言って詳しくなる気も起きず、グループでの立ち位置も確立出来ずにいた。
制服の布地が未だに固く、身に馴染まないのと同じように。
試験範囲は、小学校の内容全範囲だった。復習に力を入れていた彼女は、確かな手応えを持って試験を終えた。
最初のコメントを投稿しよう!