恋の神様がくれた飴

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ピンポーン 柴崎総合病院の院長とやって来たみよは 首筋に大きなガーゼを貼っていた 「みよ、怪我大丈夫?」 目につくところなのに痕でも残ったら申し訳がない 「ほら、進さんが大袈裟にするからじゃん」 それに軽く笑ったみよは、院長に向かって頬を膨らませた 「みよちゃんの白い肌に痕でも残ったら、損害賠償請求するからね」 院長の言うことはもっともで 「「そうだよ」」 土居と同じタイミングで頷いた 「モォォ、面倒な三人っ 二十歳を超えると老人的思考になるのね 話が前に進まないから、三人とも黙ってて」 呆れた顔をして両手を突き出したみよは 一瞬で纏う雰囲気を変えると 「天野香織(あまのかおり)」 土居の元カノの名前を口にした 「っ」 隣の土居に視線を向けると目が合った 「えりが土居さんと出掛けてからね・・・」 元カノが店に来たところから詳細に話してくれたみよに タイミングが違っていたら 会社で対面していた その事実を思うだけで 元カノの執着が怖くて肩が震える 土居はそっと肩を抱いて「ごめんなさい」と繰り返した 「もう来ないと思うけど念の為に持っておいてね」 みよが差し出してきたのはクリアファイルで 挟まれていたのは、もう二度と近付かないという念書と学生証のコピー、更にもう一枚、両手の指の母印が押されたものまであった 「「ありがとう」」 きっと私も、土居もここまでは出来なかった ホッとすると同時に涙が溢れ落ちた 「じゃあ。みよ帰るね」 そう言って帰ろうとするみよを引き止める せっかくだから土居のご両親の野菜を食べて貰いたいとビーフシチューを作ったのに 「えりのご飯とか怖くて食べらんない」 みよはいつもの調子で笑った それに腹を立ててみたものの 直ぐに違うと気付いた 「そうそう、えりはそうやって騒いでいなさいよ」 「・・・みよ」 甘やかされて育ったとばかり思っていた妹は アンテナの高い気の利く子で こういうところは敵わないって思う 「じゃあね」 院長と手を繋いで玄関へ向かうみよを追いかける この人も天然人たらしのみよにやられたんだろう 「本当に付き合ってるんですね」 特に意味もなく聞いてしまって 恥ずかしさに俯き加減になる私に 「よろしくお願いします、お姉さん」 柴崎院長は顔を覗き込んでアイドル並みの笑顔を見せた 「・・・っ」 「「お邪魔しました」」 逃げるように出て行った二人に 茫然と玄関扉を眺めること数秒 「どうしたの?えりさん」 土居も同じように顔を覗き込んできた 「揶揄われた」 「ん?」 「院長にぃぃぃ」 「ハハハ、えりさんが可愛いからだよ」 「モォォォォ、勇人までぇぇぇ」 膨らませた頬はしばらく収まりそうもない
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