永遠の別離

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永遠の別離

 診療所に担ぎ込まれたコウ君は、十日ほど昏睡状態が続きました。頭を強く打ったのもあって無闇に動かせないということで、入院用の個室の寝台に横になっています。頭は包帯でぐるぐる巻きですが、肩の方は脱臼だったようですでに処置が済んでいます。  いくら仲が良くなかったとはいえ、コウ君を失えばこの世で唯一の家族がいなくなり、天涯孤独の身になってしまう。それも自分の手で殺めてしまったことにもなる。フウ君は後悔と恐怖に苛まれながら、病室から出られずに過ごしていました。 「……いやー、意外だなぁ。フウってあんがい、コウを嫌いじゃなかったってことなの?」  村での知り合いが極端に少ないコウ君にはお見舞いもなく、隣家のカイン君だけでした。そのカイン君だって、コウ君の容体よりもフウ君の精神状態を心配しています。 「……ユウにいから聞いてたんだ。コウが泣いたり弱かったりするのはコウのせいじゃなくて、怖い夢に憑りつかれてるからなんだって。だからユウにいがいなくなったら、コウがちょっとでも楽になれるようにおれが助けてあげなきゃいけないんだって」  そんな事情があると知ってもなお、お兄さんなのに情けないとか、周囲の人達からのからかいとか、様々あって。コウ君のことを受け止めきれなかったのですね。  それはきっと幼さゆえで、ふたりがもう少し大きくなったら自然な関係になれたのかもしれません。  先に気付いたのはカイン君でした。寝台の脇で膝を抱えて蹲っているフウ君には、横になっているコウ君の姿は見えませんから。  コウ君が目を開けて、ゆるりと身を起こす姿を見て、カイン君は言葉を詰まらせました。コウ君が言葉を発する前から、異常に気が付いたからです。 「コウ……だよな……?」  カイン君が呆然と発した言葉に、フウ君も立ち上がってコウ君を見ます。あんなに待ち焦がれた目覚めだったというのに、フウ君も素直に喜べません。  コウ君の目は真っ黒……ではなく、「まっくら」でした。どこを見ているともわかりません。  これまでのコウ君はなかなか人と目を合わせなくておどおどした表情が常でしたが、その目は確かに感情を、光を宿していました。  それが、今は。まっすぐフウ君やカイン君のいる方を見ているはずなのに、その目が彼らを映しているように見えないのです。感情が沈んで窺えません。 「コウ……なまえ……コウ・ハセザワ……」  カイン君達には聞こえないよう気を付けつつ、彼は「で、いいんだっけ」と呟きます。声だけ届かないよう配慮したところで、かすかな唇の動きが彼らの猜疑心を刺激します。
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