ハセザワ家への帰宅

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ハセザワ家への帰宅

 しばらくは毎日診療所に通って診てもらうという取り決めで、コウ君は目覚めてすぐに退院しました。  アルディア村は曲がり角ひとつない一本道の両側に家の立ち並ぶ構造上、住み慣れた者が道に迷うなどほぼ不可能。にも拘わらず、病院を出たコウ君は自分の帰る場所がわからず、一歩も動けません。コウ君の体の中にいるのはそーちゃんなのですから、コウ君の家の場所など知らなくて当たり前です。 「なぁ、コウ? おれが誰だかわかる?」  いつまでも動き出す気配のないコウ君にしびれを切らせて、カイン君がそう訊ねます。 「えーと……あたまをぶつけて、きおくがとびました」  わからないことがあったらそう言ってごまかそう。コウ君とそーちゃんが相談して決めた言葉をそのまま口にしました。 「うーん……ここまで稚拙だといっそすがすがしくすらあるわなぁ」  八歳のお子様だというのに、カイン君は難しい言葉を知っていますね。お家が客商売だからでしょうか。 「まあいいよ。フウにとっちゃーいち大事なんだろうけど、ぶっちゃけておれは違和感覚えるほど話したことないし。いつまで突っ立っててもしょうがないからいったん帰ろうぜ」 「……おなかすいた……」  十日ほど、お薬により必要最低限の栄養しか摂取していないコウ君は当然ながらお腹がぺこぺこでした。 「フウ、金持ってきてる? ……わきゃないよな。今日はうちの店でおごってやるよ」 「……そんなの、カインの姉さんに話通さないで、勝手に決めていいの?」 「こんな事態もあるかと思ってあらかじめ相談してあるんだよーだ」  これまた八歳とは思えない行動力です。いつコウ君が目覚めてもいいように……さすがに目覚めるのがコウ君本人でないとは予想出来るはずもないので、その点は除外するとして。フウ君がお金を持っている場合とそうでない場合のどちらも想定して根回ししてくれていたみたいです。 「つっても毎日めんどうみてやるわけにゃーいかないし、明日の朝からは自分達だけでなんとかしろよな!」  この場面に限らず、カイン君という第三者目線があったことは、コウ君にとってもフウ君にとっても大きな助けになってくれました。
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