27人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ
翌朝目覚めたフウ君は、目を開けたらそこにコウ君の寝顔があることに、布団を跳ね飛ばす勢いで驚きます。自分が寝ながら泣いていたことも知らないですし、彼にとって今のコウ君は得体のしれない存在になってしまっています。カイン君のようにすぐ割り切れるはずもなく。
「ちょ……っと、頭ケガしてるのに……そんな不安定な寝方したらダメじゃ」
恐る恐る、極めて弱い力でコウ君の右肩をつついて起こします。眠りが浅かったらしいコウ君はすんなりと目覚めて、
「……おはよー」
寝ぼけ眼で、一言。なんてことのない、朝の挨拶。でも、今までのコウ君とフウ君はそんな挨拶すら交わさず一緒に暮らしてきましたから。
「お……おは、よう」
「あさごはん、かいにいく?」
「うん……」
「じゃ、いこ」
コウ君はすっと立ち上がり、まだ寝台の上のフウ君に手を差し出します。
「なに、これ」
「……? ごはんかいにいくときは、てをつないで、いっしょにえらぶ……ちがう?」
思い出している風景は……きっと、私や彼との旅暮らしの朝の支度ですね……。どこまで鮮明に覚えているかはともかく、忘れないでいてくれている事実が純粋に嬉しいです。
「ちがわない、けど……そんなの、したこと」
父親は、自分達が生まれるより前に。母親は生まれた時に、それぞれ亡くし。ユーリは弟達に不便を感じさせたくなくて、基本的になんでもやってあげていました。かつてのコウ君も、フウ君を頼ろうとしませんでした……。
「……どうして、ないてるの?」
フウ君の心中は複雑でした。目の前にいるのは明らかに、自分の兄ではない誰かなのに。容易く受け入れて良い存在ではないはずなのに。
お互いに素直になれなくて仲良く出来なかった兄よりも、純粋な行動で接してくる……。そんなの、拒絶したいわけがないじゃないですか。
「ひとりでいって、かってくる」
幼いとはいえ、男の子です。泣いているところを見られるのはフウ君にとって居心地が良くないかなと理解して、気を使ったつもりでした。
「まっ、て。い、いっしょに、いく」
とっさに、フウ君は身をひるがえそうとしたコウ君の服の裾を掴みます。このまま一人でコウ君が買いに出たら、あの頃のような距離感を繰り返してしまうような気がしたのです。
「……その前に、コウ。寝間着のまま出かける気?」
「あ。わすれてた」
その事実に気が付くと、急に頭が冷静になって、フウ君の涙も引っ込みました。
最初のコメントを投稿しよう!