「たこやき」と「きんぎょ」

1/3
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/260ページ

「たこやき」と「きんぎょ」

 退院は出来たものの、頭を強く打ったばかりの子供から目を離すのは危険です。いつ、重篤な症状を引き起こすとも限りません。  一応は自分が引き起こしてしまった事態ではあると反省して、フウ君はしばらくは家から出ず、コウ君の様子を見ることにしました。  コウ君はというと、せっかく体を借りることになったものの、かつて私達との日々で単独で何かをした経験に乏しく何をしたらいいかわかりません。ゆえに相変わらず、自宅二階の窓から通りを眺めるばかり……。 「フウ」 「なに?」 「もうよるおそいのに、いつもよりそとがあかるい」  なんで? と疑問を投げられて、フウ君はコウ君の側へ来て、窓の外を眺めます。 「ああ……明日は月に一度のお祭りだから。朝から屋台で稼ぎたいから、夜遅くまで準備しなきゃなんだよ」 「おまつり」  コウ君の目はあの日目覚めて以来、ずっと「まっくら」で、感情がうかがえません。それでも声には大いに好奇心が滲んでいるのを、フウ君は聞き取りました。  翌朝。朝食の買い物のため二人で外へ出ようとすると、すでにお祭りの屋台は営業開始しています。コウ君はすぐにはドアから出ず、半開きにして顔を外へ出し、右へ左へ視線を忙しく動かします。 「そんなに興味あるなら、朝は屋台で食べる?」 「おまつりのごはんはたかい。ってきいた」 「村に住んでる子供は一品だけ、どこの屋台の料理でも交換出来るようになってる。知ってるだろ?」  コウ君の分と自分の分、二枚の交換券をお財布から取り出します。……そういや、コウと一緒に祭りを見た記憶がない。ユウにいだったら知ってるのかな、コウの好きな屋台料理……そんなことを切なく思い出していました。 「たこやき、って、なに?」 「生地を丸く焼いて、中にたこっていう……魚? の一部を切って入れてあるやつ」 「たこ?」  フウ君の説明は不正確ですが、お子様ですから仕方ないです。私達の生きていた時代は世界はひとつの陸続きで、現在のように海の幸が多くの町で親しまれるようにはなっていませんでした。 「これにする?」 「うん」
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!