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そーちゃんの日記
毎晩ではありませんが、コウ君が地上で眠ると、そーちゃんが影の世界で目覚めることがあります。
「あ、コウ」
「どう? そっちはうまくやってる?」
「うん……コウ、めのしたがへんないろになってる」
体感時間としては久しぶりに会ったと思ったら、前に会った時とコウ君の人相が変わっている気がする。そう思ってそーちゃんは指摘しました。疲れ目でしょぼしょぼしている上に、隈がくっきり浮いているのです。
コウ君は無言で、右手の人差し指を左目の隈のあたりにあてがい、すっと右に流します。
「はい、これで問題なし」
そーちゃんの肌の色をきれいに見せかけている幻と同じような処置を、自分の顔にも施します。見えなくなったからって問題がなくなるわけがないのですが、幼いそーちゃんにはわかりません。もとにもどった、と頷くだけです。
「フウ……とは、仲良く出来てる?」
一応、確認だけはしておくことにしたものの。自分が上手くやれなかったことを年下の……厳密にはそーちゃんが存在して三百年になるのだから、年下といえるのか曖昧ですが……そーちゃんに求めるのは都合が良すぎるなぁと自問自答してしまうコウ君です。
「きのう、いっしょにおまつりいった。たのしかった」
「なら、大丈夫そうかな」
「でもフウって、コウがいってたのとなんかちがうかんじする」
「違う?」
「コウは、フウがコウのこときらいっていってたけど……」
なんとなくだけど、本当のコウ君に会いたがってる気がする。そーちゃんはそう思うのですが、幼さゆえに言葉で表現しきれません。そもそもそーちゃんは実感として、コウ君の中にいるのがコウ君でないとフウ君……それだけでなく村の人達からもバレバレなのがわかっていませんから。
「フ~ウ~」
「なんだよぉ……まだねむい~」
翌朝目覚めて、思いついたことがあって、さっそく試したくなって。自分だけではわからないことなのでまだ眠っているフウ君を揺すって起こしました。
「かみ、と、かくもの」
「は?」
「ほしいんだけど、どこにある?」
さすがに一般家庭に、紙も筆もひとつもないということはありえなく、フウ君は居間の引き出しから使っていない筆記帳を出してあげます。
まだ朝ご飯にも早い時間だったので寝足りなかったフウ君は二度寝してしまい、コウ君は居間の食卓でひとり、書きものを始めます。
起き出してきたフウ君は先ほどは寝ぼけていたのか、自分がそれらを出してあげたことをすっかり忘れていました。
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