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「何書いてるの?」
「にっき」
「えぇ~……?」
これまた、本来のコウ君がしたことのないような行動を示されて、頭を抱えてしまうフウ君です。
「そんなの、何のために書くの……?」
「わすれたくないことと、あんまりあえないひとにつたえたいことをかくんだって」
かつて私は、そーちゃんに日記を書くことをお願いしていました。いつかそーちゃんが本当の家族に再会出来た時にお見せしたかったのと、言葉を話せなかったそーちゃんの語彙、表現力を増やす助けになればと思ったからです。
話せる体を手に入れたそーちゃんがある程度普通に話せているのも、その習慣が実を結んだのではないかなぁと私は思うのです。やっぱりお願いしておいて良かったです!
「日記書いてるってことは……おれは見ない方がいいよね」
「なんで? みられたくないことなんか、かかないよ」
気を使って部屋を出ようとしたフウ君でしたが、あっさり否定されます。フウ君の考える日記というのは、人知れず書くもので勝手に見たら失礼。フウ君に限らずそれが一般的感覚かもしれません。
でもそーちゃんは、普段は私に、いつかは家族に見せるために書いていたもの。感覚が全く違うのです。
別に見たかったわけではないのですが、書き終えた直後だったのもあってはいどうぞ、とコウ君に手渡されてしまい。渋々それを読みました。
『フウとおまつりいった。
たこやきをたべたらあつすぎてびっくりした。
でもおいしかった。
はじめてきんぎょすくいをした。すぐにかみがやぶれていっぴきもとれなかった。
たのしかった』
まぁ、実質的に四歳児なので、こんな感じです。本当に大切なこと、忘れたくないこと、伝えたいことを書けばいいですよと教えていたので、金魚が死んでしまったのは書かなかったようです。
「楽しかったんだ……あれで」
表情の変化が乏しすぎて、半信半疑でした。楽しんでいそうだけど、実際どうなのかはっきりしなくて、不安になっていたのです。
「フウは? たのしくなかった?」
本音を言えば、村の友達とワイワイ大騒ぎしながら見るお祭りの方が、楽しい。残酷だけどそんなものです。
でも……今までコウ君と一緒にお祭りで遊んだ記憶もなく。コウ君が何を楽しむ性格なのかわからず手探りの中、一緒に歩いて。
表情にぜーんぜん出ていなかったとはいえ、本人はどうやら楽しんでいたらしいとわかって……。
「楽しいっていうより、なんか……嬉しかった」
「ふーん?」
こういう場面で感じる嬉しいの意味がコウ君にはさっぱりわかりませんでしたが、深く考える間もなく。
「おなかすいたー。パンかいにいこー」
中身の年齢が逆転してしまっても、お財布の管理は以前のままです。コウ君はお財布を胸元にしまって、フウ君の手を繋いでさっさと歩き出してしまいました。
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