危機一髪でした

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 コウは自分の部屋にずっといるのが好きだったんだな。今も似たような状況……真っ暗闇の世界に引きこもってるから、そういうのが趣味なのかもしれない。  そーちゃんはそう考えて納得しましたが、とんでもありません。コウ君が自室や暗闇に閉じこもっているのはどちらもやむにやまれぬ事情があったからで、好き好んでしていたわけではなく。でも、そんなことをそーちゃんが知る由もありません。 「あんまりフウに苦労かけんなよー? 兄ちゃんだろ?」 「だってさ。うちのお金、そろそろなくなりそうだから。どっかでもらわないとパンが買えなくなっちゃうよ」 「金欲しさで人さらいに引っかかりそうになるとか悲惨すぎるだろ……あの話、そろそろ真面目に考えたら? 今ならフウだって、あの時より素直に聞いてくれるだろうし」 「あの話って何?」 「あんな大事な話忘れるとか……頭ぶつける直前だったし記憶も吹っ飛んだかなぁ」  それももちろん考えられる可能性ではありますが、まぁ、あの頃のコウ君と今のコウ君は別人なんだろうな……と思案するカイン君です。それだけ、以前のコウ君とはあらゆる場面で反応が違いすぎるのです。  致し方なく、カイン君はもう一度、コウ君達の家を売るか貸すかの話をしました。その話の途中で、宿屋の玄関を開けて入ってきた若い男性が、ネイル・リークイッドに話しかけます。カイン君の姉で、宿屋の主人です。 「コウ・ハセザワという子供を探している。ここで聞けばわかると、村の人から教わって来た」  つい先ほど、見知らぬ人にさらわれかけたコウ君を名指しで。ネイルさんは思いっきり疑いの目で見ていますが……。  これを見て欲しい、と、彼女に差し出した木製の十字架。その裏に書かれた文字を見て、言葉を失います。 「カイン。フウを探して連れてきな。コウはこっちへおいで」  カイン君は言われた通り、フウ君を探しに外へ出ます。コウ君もネイルさんの元へとことこ歩いていきます。  彼女はコウ君達のお父さんを慕っていたそうですから、最近はコウ君にもフウ君にも親身にしてくれて、すっかり懐いているのです。いいなー。私も昔みたいに甘えられたいです!  どうやら不審者でなく関係者であるとわかっても、念のため、ネイルさんはフウ君が到着するまでコウ君を傍らにいさせました。
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