K・HASEZAWA

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K・HASEZAWA

 宿屋の一階はお客さん用の食堂兼休憩スペースにもなっています。カイン君達が戻ってくると、ネイルさんは彼、コウ君フウ君の三人をテーブル席に座らせて、カイン君に外へ出るか自室にいるかどっちかにしろと指示します。要は席を外せということです。カイン君になら聞かせてあげてもと思いますが、カイン君は素直に自室へ向かいました。 「僕の名前はソウジュ。君達の兄、ユウ・ハセザワと同じく支配軍に雇われていた」 「……ユウにいのことで手紙をくれた人?」 「覚えていたのか。もう一年近く経つのに」  ユーリの死を伝えるソウジュ様からの手紙を、フウ君はひとりでこっそり、何度も読み返しています。だから名前を覚えていました。時には人に見られぬよう涙していて、ソウジュ様の文字はところどころが滲んでいます。 「彼が……死んだところは、わけあって僕がひとりで見送った。亡骸も失われてしまって公的に死を証明することは不可能だが、僕にこれを託してくれた。コウ・ハセザワに届けて欲しいと」  ソウジュ様は、「消えた」と言いそうになって、「死んだ」と言い直します。同じようでも私達にとっては違うのです。体を失いはしたものの、完全に死滅したつもりはありませんので。しかし、それを事情を知らぬ人に理解してもらうのは不可能ですから。 「これって何?」  コウ君は受け取った十字架をひとしきり眺めた後、フウ君の目の前に掲げます。 「それは君達の父親の形見だそうだ」  ソウジュ様はユーリに真相を聞かされていますが、ところどころぼかして伝えていきます。ユーリは、彼らの父が死んだのは自分に関わったせいだと言っていましたが、そういった部分をごまかすためです。 「だったらこれはフウが持ってた方がいいよ」 「は? ……ユウにいはコウにって言ってんだろ? 兄だから」  実際のところフウ君は、兄だからってまたコウ君が家族の大事なものの管理を任されるのかと不満ではありました。コウ君はそういう気持ちに配慮した……わけではありません。フウ君のそういった感情にちっとも気付いていませんから。 「うまく言えないけど……オレが持ってるよりフウがいいと思うから」  コウだってたぶんそう言うと思うし。これはもちろん口には出せません。  要するに。父親の形見なんて大事なものを、彼の息子ではない自分が持っていてはいけないと考えているのです。コウ君本人ならまだしも、身代わりでしかない自分ではなくフウ君が持っているべきだと。
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