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「いいよ、別に。おれじゃなくコウが持ってて」
「でも……」
「裏の名前、見てみろよ。お父さんの名前であると同時に、コウの名前でもあるじゃん」
彼らの父の名前はクウ。十字架の裏に彫られているのはK.HASEZAWA。確かにフウ君の言う通り、コウ君の名前とも同じ表記になるんですね。
「そういうことなら……お父さんっていうよりコウのものだと思って、オレが持ってる」
「そこまでこだわるのがわかんないけど……そうしたら?」
「うん。ありがと、フウ」
「なんだよ……さっきからなんか変」
「なんでかわかんないけど、なんだか嬉しい」
自分で言っている通り、コウ君は自分がどうしてそう思うのかが自分でもよくわかっていません。
フウ君が、自分でも持っていたいと思うようなとてつもなく大事なものを、コウ君に預けてくれた。信じてもらえているみたいで嬉しいのです
理由はもうひとつ。現在のコウ君もそーちゃんも、自分自身の大切な持ち物というものがありません。気まぐれに書いている日記帳は書くほどにどんどん増えていきますが、ゆえに唯一の個体とは言えません。
服のような着古せば捨てる消耗品ではなく、今後もずっと持ち続けなければならない、家族と繋がる宝物。人によってはそれを煩わしく感じるかもしれませんが、そういった物に恵まれなかった彼にとっては眩しく思えました。十数年も経過して少しくたびれた様相の、木製の十字架が。
「ソウジュさんも、わざわざ持ってきてくれてありがとう」
「あと……ユウにいのことで色々してくれて」
コウ君はちょっとご機嫌ですが、父や兄の死についてのお話しでフウ君は少し気落ちしています。それでもきちんと、ふたりそろって感謝を伝えます。
「君達は今、どうしているんだ?」
ユーリが家を出てから二年、地上から消えて一年。いくら平和な村とはいえ、子供ふたりだけでどうやって暮らしてきたのかがソウジュ様には気がかりでした。
特に隠さなければならない理由もないので、ふたりは正直にこれまでのことを話しました。もうすぐ、ユーリの残した貯金もなくなりそうなこと。父の残した大事な家を、お金に変えなければならないのかと話し合っていること。
「そうか……君達が良かったら、僕をしばらく家に置いてもらえないかな」
私ですら聞いていて意外に思ったのですが、ソウジュ様はふたりから了承を受けて、しばらくアルディア村で暮らすことになりました。軍属で得た貯金だけでもコウ君達と数年は遊んで暮らせるくらいの貯えがあるのですが……何せ、ソウジュ様ひとりでは禁欲が過ぎて、いただいたお金を浪費することがほぼほぼないのです……村できちんとお勤めをしています。
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