幸せな三人暮らし

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幸せな三人暮らし

 ソウジュ様もすでに数百年、これから先も数百年、生きるのです。その間にしてきたのは変わり映えのしない生活。旅をして、軍に所属して、戦って。その繰り返し。  コウ君達が大人になって自活出来るようになるまでのほんの数年間、平和な村で普通の人のように暮らしてみる。とある理由からソウジュ様は己を律して、罰して。そんな暮らしぶりを貫いてきましたが……長い長い生涯のほんのわずかな数年間くらい、自分を許して穏やかに暮らしても良いのではないか。  そう考えてくださったことも、実際にそのように過ごせたことも、私はこうして眺めていて本当に嬉しかったです。何より……。  本人達は気付いていませんが、ソウジュ様とツバサ様とそーちゃんが家族のように一緒に暮らせる日がまた来るなんて。まるで夢のようだと思いました。 「ソウにいー、あそんでー」  真実を知るはずもないそーちゃん……もとい、コウ君ですが、ソウジュ様に遠慮なく甘えます。最初はちょっと遠慮がちで様子見だったフウ君も、しばらく経つとユーリにしていたのと同じように兄として慕うようになりました。 「遊ぶ、か……こういう時ってどんなことをすればいいものなんだろう」  ソウジュ様もツバサ様も、お子様の頃に不自由を強いられて生きてきたので、普通の子供の遊び方など知りません。本気でわからなくて悩まされてしまいました。 「この間の祭りのくじで当てたヨーヨーやろうよ!」 「そんでー、次の祭りで射的してるとこ見せて欲しいー」 「おれ達じゃぜーんぜん倒せないんだもん。景品重すぎて。大人だったらちゃんと倒れるのか見てみたい!」 「射的か……」  お祭りの射的で飛ばすのはコルク栓であるとか、ソウジュ様は詳しいことは知りません。それでも長く軍属で暮らしていますから、射撃関係には腕に自信がありました。 「わかった。挑戦してみるよ」 「やったー! 楽しみだなー、次の祭り!」 「楽しみー」  大人どころか数百年生きているソウジュ様ですが、普通の人として味わうことの出来なかった暮らしや遊びを、今になって追体験しています。コウ君とフウ君と接することによって。  こんなに幸せな日々が、ずっとずっと続けばいいのに。当人達以上に、私もそう願ってやみませんでしたが……彼らの運命は相も変わらず酷薄で、ほんの数年で現実は次の悲劇へ向かい始めました。  それはやはり悲しいことではあるのですが……ほんの数年でも、彼らが本当に仲良く楽しく暮らしたのを私は知っています。そんな日々が確かにあったことを素直に喜びたいと思います。
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