善?は急げ

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善?は急げ

「初めまして、わたしは源泉竜のリリアンス! 女の子の仲間が先にふたりも待っててくれてたなんて嬉しいな~」  シーちゃんの率いる大陸軍と衝突し、ソウジュ様の神器によって打ち倒されたリリアがグラスブルーに現れました。私もエルも彼女の地上での所業を知っているので、この初対面の挨拶とのギャップに心中は戸惑いでいっぱいでした。 「でもぉ……ユーリはもうここにいないのね? 彼に会うためにわざわざ殺されたっていうのに、いないんじゃ意味ないなぁ。がっかり~」  シーちゃんやソウジュ様が必死に戦って倒したというのに、彼女の目論見通りなのです。なんというか、話し口や見た目の印象、悪気が一切ないのも手伝ってあまり憎めないのですが、それはそれとして実に邪悪です。  神話時代から源泉竜様の無邪気な在り方は世の中に混乱をもたらすものと恐れられていましたが、生まれ変わってもその生きざまを貫かれたのはある意味お見事かもしれません。 「ユーリと同じところへ行きたいのでしたら、クエスに呼びかけて影の世界へ行けばよろしくてよ? 会える保証はありませんけど」 「保証なんかいらないわ。わたしは彼という存在に近付ければそれだけでいいんだもの」  親愛ではなく、この世で唯一、自分の理解の及ばない存在。彼の謎を追うことが、この世で唯一残された彼女の命題。だから追い求め続ける。たとえ辿り着けないとしてもお構いなし……。 「リリアは心がお強いですね……」 「そお? わたしはわたしがしたいことをしてきただけなんだけど。わたしが望んで叶わなかったことなんかなにひとつないんだから」  だから疑いもなく、辿り着けると信じているのです。どんなに逃げられても隠されても、ユーリを捕まえられると。 「クエスー? わたしはリリアンス・グラスブルー! そちらへ入れてちょうだい」  ユーリがしていたのと同じようにクエスへ呼びかけると、すぐにお迎えがありました。彼女の足元に黒い水たまりめいた影が発生し、そこへ沈んでいきます。 「じゃあねー、イリサ? エル? ご縁があったらまた会いましょ」  名前もうろ覚えの、ほんのわずかな邂逅でしかありませんでした。挨拶ひとつすら交わさなかったユーリと比べればしばしお喋りをしただけでマシなんでしょうけど。 「リリアには申し訳ないですけど……どうにも応援したい気持ちになれませんわねぇ。ついついユーリが逃げ切れますようにと願ってしまいそうですわ」 「そう……ですね?」  私もユーリが地上でいかに苦悩していたかこの目で見てしまっているので、エルと概ね似たような意見でした。ごめんなさい、リリア。
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