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コウ君は普段、右の二の腕にお父さんの形見、統一軍の木製十字架ネックレスを巻きつけています。首から下げているとお仕事の時に邪魔だからです。それを取り外してアオイさんに見せます。
「K.HASEZAWA……クウ・ハセザワか。たった半年の勤めだったがまだ十数年前のことだ。覚えているよ」
本当は、統一軍にとって特別な因縁のある人だから印象に残っていただけですが、表向きはそのように言います。私が憤ってもしょうがないのですが、傍から聞いていてちょっともやもやしてしまいます。
精霊は外見は若いまま長い寿命を生きる種族です。アオイさんも見た目はコウ君とほぼ変わりませんが、もう百年以上は生きているはずです。
「戦いの経験なんか何もないオレに、わざわざ軍の勧誘とか……そんなに兵が不足してるのか?」
シーちゃんとソウジュ様がリリアを討ってから一年経ちました。強烈な旗頭を失った統一軍は、解散こそしなかったものの弱体化は免れません。それでも源泉竜の遺した使命、「三大陸を精霊族の力で統一する」を全うするべく活動を続けるのです。
「ゆえに、誘いを断れない弱みのある者を調べ上げてこうして声をかけているというわけだ」
「弱み?」
ごく普通に暮らしてきたコウ君には、軍属にならざるを得ないような弱みなどまるで心当たりがないのです、が……。
「そなたの弟、赤い髪だそうじゃないか。あと何年生きられるつもりだろうな?」
思いがけない言葉に、ほぼほぼ表情の変化しないコウ君でさえ、眉間に緊張が走るのが見受けられました。
「我々はあと五年以内に必ず、グラスブルーへ辿り着く。彼の地の魔力があれば叶わぬことなど何もないと伝えられておる。そなたの弟の運命を変えられるとしたら、グラスブルーの力をもって他にないのではあるまいか?」
この村で暮らしてもう五年以上になり、コウ君も村の人とすっかり打ち解けています。それでもこのような重大なお話を相談出来るような相手はカイン君くらいのものです。
いつもだったらカイン君の家の食堂でご飯を食べながら話すことが多いのですが、この時ばかりは人目を避けて、コウ君の家にカイン君を呼んで来てもらいました。
「そんで、その話請けちまったってぇ? 正気か?」
「自分でもまずいことしてるかなって思うけど、実際彼女の言う通りでもあるし。その日を迎えるまでただ待っててもしょうがない、やれることは全部やらないとって、フウも言ってたじゃないか」
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