語られない物語

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語られない物語

 アオイさんの案内でP大陸からG大陸へ、さらにその最果てにある統一軍本拠地まではそこそこの長旅でした。半年以上かかったでしょうか。  正式に統一軍の一員となっても、コウ君が期待していたような軍事訓練にすぐに参加、とはなりませんでした。 「コウ・ハセザワ。カイン・リークイッド。そなたら両名の所属は統一軍人事部だ。つまりはわらわの命令で手となり足となり働いてもらう。そして……」  そなたが手で、そなたが足だ。コウ君とカイン君を順番に指さして、そう宣言します。その時点でカイン君は嫌~~な予感を抱いたのですが、直感的に。 「ってわけなんだよ、あー腹立つなぁ!」  カイン君はアオイさんの命令で、アオイさんがコウ君を呼びに来たように、各大陸を移動しては勧誘候補者に直々に会いに行く仕事を任されることが多くなりました。  その移動でR大陸に来たのを利用して、王都フィラディノートで修業中のフウ君と、彼を見守るソウジュ様に会いに来ました。  フウ君はカイン君からの手紙で、コウ君が統一軍に入ったこと自体はすでに知っています。父親の件があるので一体どうしてそんな判断になるのかと呆れていましたが。  コウ君を見張ると約束したカイン君なのにアオイさんの命令でコウ君から頻繁に離されてしまう。思い通りにならないことにカイン君は腹を立てていましたが、彼の交渉術は実に優秀で、勧誘担当として適職なのは間違いありません。口下手なコウ君ではとても務まらない気がします。 「それは少し、まずいかもしれないな……」 「どういうこと?」  ソウジュ様がいたって真剣にそう呟くのを聞いて、フウ君は少し不安を抱きながら問いかけます。 「フウをだしにして統一軍に入隊させて、ついてきたカインを遠ざける……まるで、コウを単身で確保しておきたいみたいだ」  事情を知らないフウ君もカイン君も首を傾げていますが、ソウジュ様はそれ以上の情報を彼らに与えませんでした。  赤い髪の弟と共に生まれたコウは、二十歳になれば太陽竜の体に変化する。源泉竜に仕えてきた彼らはそれを知っているはず。グラスブルーを手に入れたい統一軍は、いち兵士としてではなく何かに利用するため、コウの体を手に入れておきたかったのではないか。  ソウジュ様の見立ては正しいです。しかし、私が知っているということは本当のコウ君だってそれを知っています。クエスの力を通して偽りのない情報を手に入れているわけですから。だから統一軍の思い通りにはならないよう、きちんと対策してくれるとは思うのですが……。
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