語られない物語

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 統一軍人事部でのコウ君のお仕事は、書類確認が主でした。  コウ君の勧誘の際に、フウ君の存在を弱みとして提示してきた統一軍でしたが……。 「こんな膨大な他人の情報、一体どこから手に入れてきたんだ?」  自分に使われたのと同じような、数多の人々の弱みが記された書類が山と積まれている状況に空恐ろしさを感じてしまいます。 「各大陸には諜報員を放ってある。彼らの所属も人事部だ」  人事部所属の諜報員は定期的に手紙を送ってきて、その手紙に書かれた報告を精査してコウ君が書類に清書します。カイン君は新規入隊者を連れ帰るためその都度帰還しなければなりませんが、諜報員が報告の為にいちいち帰還していては移動に余計な時間がかかりすぎるからです。  勧誘員もカイン君だけではなく他に何人かおり、彼らの連れ帰ってくる新規入隊者に面接します。採否を決めるわけではなく全員が入隊しますが、彼らの初心を聞いてそれも書類に残すためです。  コウ君はこれ以降数百年と生きますが、大きな組織に勤めてこれほどたくさんの人に接する仕事をしたのは、後にも先にもこの時限りでした。  統一軍という組織全体は綺麗なところとは言い難いものの、人事部や統一軍の仲間との関わりやここでの経験は、コウ君にとって唯一無二ともいえる大切な思い出になっていきました。  勧誘の際は威圧的な態度で接してきたアオイさんも、仲間になってからは非常に親切な人柄でした。最後には、コウ君にまつわる統一軍の企みからコウ君を守ってくれるほどに彼に情を移していきました。残念ながら、その頃のお話をする機会はないかもしれません。
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