親友として

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 苦渋の思いで、その点を掘り下げるのを諦めます。世迷言としか聞こえないコウ君の主張よりも、カイン君にとって大事なことが他にありましたから。 「だったら……今まで俺達のそばにいたあいつは誰だ?」  カイン君にとって、もう五年以上身近で暮らしてきた今のコウ君は、もはや親友同然でした。フウ君の心細い時期を支えてくれて、今もフウ君を想って統一軍などという危険な場所にいることを厭わない。そういったこれまでの積み重ねに心から感謝しているからこそ、見過ごせない問題があったのです。 「おまえ自身の別人格でしかないんだったらとやかく言わないけど……もしコウじゃない誰かなんだったら。あいつにだって家族がいるんじゃないのか。おまえの身代わりなんかで何年も使わせて、そんなの許されると思ってるのかよ?」  コウ君は一度だけ、深く溜息をつき。目を閉じました。 「……あれ? カイン、帰ってたんだ」  次に目を開けた時にはいつものコウ君に戻っていて、今度はカイン君が重苦しくひと息吐き出します。あの野郎、逃げやがって……本当に逃げ癖のある奴だな。そう思われてしまうのは無理からぬとはいえ、私は少々胸が痛みます。コウ君なりの願いがあるからこその行動ですが、それをわかって欲しいというのも難しくて。 「おかえり」 「あ、……ああ。ただいま」  なんとなく、自分の方こそ「おかえり」と言いたい心境のカイン君でしたが。その言葉も気持ちも、飲み下しました。まるで吐き出すべき唾を飲み込まなければならないような胸の気持ち悪さを覚えながら。
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