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【七章】天空竜の門出
この数百年、私は基本的に常に眠り続けていて、自分から目覚めることはごく稀でした。
「イーリーサ……」
目覚める時はこのように、エルが私を起こしてくれます。たいていは外で異変や、面白そうな出来事があった時。本当はひとりぼっちでグラスブルーにいるのは退屈でしたでしょうに、彼女が個人的な用事で私を無闇に起こしてくることはありませんでした。
「おはようございます、エル……あら?」
目覚めたと思いきやそこは暗闇で、グラスブルーではありませんでした。声はすれども、エルの姿も自分の姿も見えません。
「こちらで目覚めたのは初めてでして? ここは影の世界ですわ」
「そうですねぇ……私自身が、ということでしたら初めてかも」
コウ君達のやり取りを覗き見ていて、ここがこんな感じなのはなんとなく察していましたが。実際に目覚めるとこんな感じなんですね。
そーちゃんの姿だって、コウ君に触れられるまでは人の形を成していませんでした。コウ君の力がないとここで人の姿は見えないのかもしれません。
「どうして私達はここにいるのでしょう?」
「わたくしがクエスにお願いして、イリサと一緒にここへ入れてもらいましたの。最後に、あなたにお別れを伝えたくて」
「お別れ?」
「わたくしもそろそろ、こちらの世界にお暇しようと思いますの」
姿が見えないので声で想像するしかないのですが、エルの言葉の響きはいたって安らかでした。
「クエスの望む世界の在り方は、ユーリやリリアがこちらへお出でになったことで一歩ずつ近づきつつありますわ。けれど、わたくしが外にいる限り完成には至りません……迷っていたとはいえ数百年もお待たせして気の毒なことをしましたわ」
「私には実情がよくわかりませんけれど……迷うような事情があるならエルが気負うことないですよ」
クエスやコウ君が望むことがあるとして、彼らは私にとって大切な人ですから、もちろん叶えてあげられるならそれが望ましいです。だからといって、エルが何らかの犠牲を強いられるのなら、どうぞそうしてくださいなんて言えません。
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