影の世界の完成

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影の世界の完成

 間もなく。影の世界に夜明けが訪れました。それは本当に一瞬のことで、まばたきひとつの後に目を開けたらそこに景色が生まれていました。今まで黒一色だったというのに。  私は懐かしい、あの日の草原に立っていました。コウとそーちゃんが影に飲まれた草原。私がソウジュ様に見守られながら海水に還った枯れ木の側に私は立っています。草は青く染まっていません。  頬をそよと撫でる風に、私は悟りました。  風神竜様たるユーリがこの世界に入ったことで風が。源泉竜様たるリリアが入ったことで自然が。そして天空竜様たるエルが入ったことで空が……この影の世界に存在できるようになったということなのですね。  風と自然はあの暗闇の中にあの日以来在り続けたのでしょうけれど、光源がなくて視認出来なかった。エルがここに入れば、世界を構成する最低限が完成するということだったのです。  私はしばらくそこで世界を眺めていましたが、空はずっと青いまま、日が暮れることがありませんでした。もしかしたら空だけではなく、太陽がなければ空の色は変わらないということなのかも。だとしたら……。 「ソウジュ様……」  いえいえ、空が青いまま変わらなくて何の不都合があるでしょう。そのためだけに太陽竜様……ソウジュ様にこちらへお出でくださいなんて、とても思えません。そう考えたと同時に気付いてしまいました。この世界の問題点に。  どんなに頑張って模倣しても……この世界は……。  もしかして、彼らの世界に都合の悪いことを考えたからなのでしょうか。気が付けば私の足元の草原は真っ青になっていました。影の世界からグラスブルーに戻ってきたみたいです。  ほんの少し盛り上がった程度の丘に立ちながら、私は青い草原のただ中に鮮やかな赤い色を見つけました。何しろそこだけ色が違うので目立ちます。  きちんと確認するまでもなくそれが何なのか察しがついて、私は思わずこみ上げてきそうになる涙をぐっと堪えました。気持ちが落ち着くのを待って、ゆっくりと、そちらへ歩み出します。 「コウ君……ですか?」  本当のコウ君なのか、それともそーちゃんなのか。姿を見ただけでは私にはわかりません。  脱力するように地面に座り込む背中に呼びかけても、彼は返事をしてくれませんでした。  返事をしてくれないということは私を拒絶しているのかもしれませんが、思い切って私はその隣に膝を着きます。コウ君が項垂れて一心に見下ろしている先にあったものは私にとってもあまりに辛いものでした。
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