海へ還る命

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海へ還る命

「フウ君……」  コウ君の膝の上にはフウ君の頭がのせられていました。瞳も閉じられないまま、しかし目前にあるというのにその目はコウ君の顔を映していません。  白い服の胸元は鮮血に染まっていて、しかし時間と共に色あせてしかるべきそれもおそらく、出血したその時点から色が変わらないまま。  一目見てわかります……フウ君は、亡くなっていました。  しかし、このグラスブルーには時の流れがありません。フウ君は亡くなったその時のまま固定され、鮮血も遺体も変化せず。コウ君は一体どれほどの時間、フウ君の亡骸を眺めていたのでしょうか。  そして、私は知っていました。コウ君が話してくれなくても、どうしてこのようになってしまったのか。  フウ君が二十歳になるまで運命を変えられなかった場合、ソウジュ様がどのような選択を取られるのかを私は知っています。過去の赤い髪の方々にソウジュ様はそうされてきましたから……。  フウ君のように赤い髪で生まれた方々……傀儡竜様の生まれ変わり。神罰が発動し地獄のような責め苦を受けるその体を解放して差し上げられるのは、太陽竜様の神器だけです。神罰の発動を見届けたソウジュ様はこれまでも、自らの神器によって彼らを介錯してきたのです。  だから……おそらくフウ君にも、同じことをしたのだと思います。  それでもソウジュ様にとってフウ君は家族のような存在でしたから……どんなにお辛かったことでしょう。コウ君も、フウ君も、ソウジュ様も……。 「オレのせい……だったんだ……」  私に聞かせるつもりとも、独り言とも取れる雰囲気でぽつり、言葉を漏らします。 「オレがいたせいで……コウとフウは……仲直り出来ないままになっちゃったんだ……」  その言葉でようやく、今ここで、フウ君を見ているのがどちらだったのかがわかりました。  コウ君が体を貸してくれると言った時、漠然と「本当にいいのかな」とそーちゃんは感じていました。けれど、それを受け入れることで具体的にどのような弊害があるかまでは想像出来ていませんでした。  フウ君はコウ君に酷い怪我をさせてしまったことを謝りたいと思っていました。コウ君はそんなことちっとも気にしていませんでしたけど、それがフウ君にわかるはずもありません。コウ君自身がそれを伝えてあげないことには。
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