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たった一言「ごめん」と伝えることが出来るだけでも、コウ君とフウ君のすれ違いが解消される可能性はあったのに。あの日以来、コウ君がフウ君の前に現れなかったことでそれさえ叶わなかった。そーちゃんが……自分がいたことで、コウ君が戻るべき体を奪ってしまったから……。
あの日以来、本当のお兄さんに一度も再会出来ないままに……フウ君を死なせてしまった……。
「どうしよう……どんなに悔やんでも、もう、取り返しがつかない……」
たとえそーちゃんがどれだけ、弟同然にフウ君を想ったところで、コウ君に代わってしまうなんて間違いだったのかもしれません。そーちゃんはそう気付いて、自分を責めてしまっていますが……。
「あなただけが悪いなんて、そんなこと、絶対ありません……! みんな、精いっぱいに頑張ったじゃないですか。自分に出来る限りのことをしようって……、一生懸命だったじゃないですか……っ」
コウ君が自分の体に戻れなかったのは影の世界を作るため。たまたまそこにそーちゃんがいたから自分の体を彼に任せて。そーちゃんは約束した通り、フウ君のお兄さんになろうと頑張って。
フウ君は戸惑いながらも、親身に接してくれるそーちゃんを受け入れてくれました。叶わないかもしれないと知りながらも、自分の運命に最後まで抗って努力を辞めませんでした。
私はずっと、そんなあなた達を見てきたから知っています。
「本当は、わかっていますよね? 本当のお兄さんじゃないかもってわかっていて、それでもフウ君だって、あなたのことが好きだったって……」
コウ君とフウ君の間では上手く交わせなかった兄弟としての思い出を、そーちゃんはたくさん作ってあげられたじゃないですか。
「本当のことを知ったら、きっと……フウ君は……許してくれますよ……っ」
私は手を伸ばして、フウ君の目を閉じました。そして……。
「ごめんなさい……フウ君……コウ君……」
コウ君はおそらく、フウ君の体を影の世界に入れたかったのだと思います。魂には記憶が、肉体には感情がそれぞれ宿りますから。
でも……エルの言った通りだと、私も思うのです。影の世界は永遠ではなく、いつかは終わる。
その時にフウ君の心がそこにあったなら……今度はコウ君自身が、フウ君を殺めることになってしまうから。
それだけは、私は絶対に絶対に嫌でした。たとえフウ君がそれを望んだとしても、いつかコウ君を悲しませるのなら……。
私は血に濡れたフウ君の胸元に手を重ねて……彼の体を水に還しました。海の水に。
海水はコウ君の膝の布を濡らし。地面に染みを作ります。けれど、おそらくグラスブルーではなく海に還ったと思います。
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