イリサの旅立ち

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イリサの旅立ち

「コウ君。私をこの場所から出してください。あなたのこれからの旅に、ご一緒させてください」  私は立ちあがり、想いを伝えます。「ご一緒させて欲しい」とか曖昧な言い回しは避けて、あえて断定的な言葉を選びました。  コウ君は座り込んだまま、私を見上げます。 「……あの……あなたは、誰……?」  なんだか懐かしい人のような気がするけど……。遠慮がちにそう付け足します。過去に知った人なら忘れていることが申し訳ないと、そういうことでしょうか。  今までずっと、クエスの力で人の心を覗き見してきた弊害ですね。向き合った方の心の内など見えなくて当たり前なのに、それがわからないことがほんの少し心細くなってしまいます。 「私はイリサです。この星で生まれた、ただのイリサですよ」  私は母神竜マザー=クレアの生まれ変わりなどでなく、ただただイリサとして生きたいです。この時、心からそう思っていました。
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