影の世界

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 混乱しながらも他に手段が思いつかず、自分の髪の毛を一本抜きました。よくよく見て……何度見返してもそれが黒いことに混乱します。 「違う……俺の髪はこうじゃなくて……黒い髪だったのは」  父親も母親も髪の色は黒。その息子である自分も黒髪なのは何の不思議もなくむしろ自然なくらいなのに。自分の内面が全力でそれを否定してきます。 「あっ……フウー? 朝ご飯はどうするのー?」  考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうで、フウ君は愛する母の声も振り切って外へ飛び出しました。  考えた末に足が向いたのは、森の奥を抜けた岬に作った秘密基地。大人達にも兄弟にも内緒で、友達とだけで作った集合場所。基地といっても別に家のような形にしたわけではなく、村で捨てられる家具を譲り受けて仲間で頑張って運んで、遊び道具を詰めたり並べたりしただけの、漠然とした空間でしかありません。  どうにかそこへ辿り着きましたが……フウ君達の集めた家具はそこになく、それどころか。 「なんだよ、これ……っ」  岬……岸壁になっていて船は着けませんが、そこからは海が眺められます。そのはずでした。  海があるはずの場所には真っ黒な壁が空高くまで積み上がって終わりが見えません。そこで世界が終わっているのです。 「気付いちゃったんだ……」  後ろから聞こえた声に、フウ君はびくりと震えあがります。こんな不気味な、逃げ場のない場所で見知らぬ人とふたりきりなんてぞっとします。  恐る恐る振り返ると、そこにいたのは今朝、二階の窓から見た赤い髪の青年でした。フウ君が怖がっているのに気付いて、申し訳程度に微笑みます。……何故でしょう、フウ君も私も会ったことのない人のはずなのに、慣れ親しんだ人と向き合っているような気持ちになってしまうのは。
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